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まんまるは既に回り込んで崖から上がろうとしていた。
気づかれる前にヨシナリは少しだけ身を乗り出して突撃銃を連射。
敵機は直ぐに応射してくる。 これで少なくとも一機は釘付けにできた。
まんまるが崖を登り切って狙撃銃を構えた所で銃撃が止む。 後退したようだ。
思い切りがいい? いや、どちらかというと――
「――こっちの動きを読んだのか?」
だったらとヨシナリは崖から上がり、更に連射して移動。
まんまるとは逆の方向へだ。
「まんまるさん。 俺の位置は?」
「大丈夫ですぅ。 把握してますぅ」
やはり彼女は優秀だ。
さっきの連射は彼女にヨシナリの位置を掴ませる為の物なので、意図を汲んだまんまるが誤射する可能性が低くなった。
「相手の動きはかなりいいです。 撃つのは当てられると確信した時以外は可能な限り控えるように」
「りょ、了解ですぅ」
――それにしてもⅠ型の安物センサー、マジで終わってるな。
霧の先がさっぱり見えない。 加えて、敵は三機全てが健在。
一機は突撃銃装備の中距離装備。 残りの二機は姿すら見えていない。
ホーコートを落とした勢いのまま、畳みかけてこない辺りかなり慎重な相手だ。
ヨシナリは移動しながら姿勢を低くして正面を進む。
こういった身を晒すような動きは避けたいのだが、前衛があっさり沈んだので自分がやるしかない。
本来ならホーコートに前衛をやらせて相手の出方を窺いつつ情報を集めて対処を決める予定だったのだが、居なくなった以上は自分でやるだけだ。
センサー系が使えないなら自分の感覚で補うしかない。
どんな些細な変化も見逃すな。 同時に相手の思考を逆算する。
一機仕留めて気持ちに余裕があるはずだ。 残りの敵機の実力が未知数である事を踏まえて深追いはしなかった。 この霧の中なので狙撃は難しく、仕掛けるとしたら近~中距離。
配られた武器の傾向からブレードが突撃銃の可能性が高い。
センサー系を強化する装備を支給されている可能性はさっき潰した。
あそこまで派手にばら撒いて何もしてこなかったのだ。 狙撃はなくはないが、見えていないので必中は難しい。 可能な限り足音を殺しているが、駆動音は消しようがないので不安は付いて回る。
Ⅰ型はジェネレーター出力の関係でブースターを搭載できないで飛行ができない。
その為、移動方法はスラスターを利用したジャンプか二本の足のみ。
――極限まで強化した愛機が恋しいぜ。
そんな事を考えながら動きを止める。
さて、ここまで仕掛けてこないという事はどこかへ誘い込もうとしているとみていい。
恐らくは待ち伏せ。 特徴的な地形に入った瞬間、仕掛けてくるだろう。
ヨシナリならそうする。
見通しが悪いので何らかの目印を用意してそこを狙う方が当て易いからだ。
――どちらにせよ動かないと何も変わらない、か。
「まんまるさん。 狙えそうですか?」
「射程内ですけど、ちょっと難しいですぅ……」
それだけ聞ければ充分だった。
「これから敵の誘いに乗ります。 情報がないのでアドリブになりますが、当てにしてるのでよろしく」
そう言ってヨシナリは突っ込んでいった。
――ひ、ひぇぇ!?
まんまるは突っ込んでいったヨシナリを援護する為に慌てて狙撃銃を構える。
彼女は元々、強い者に従順で弱い者にはひたすらに強く出る気質だった。
何故ならそれが楽だからだ。 長い物に巻かれると言えば聞こえはあまり良くないかもしれないが、彼女にとってはそれが最も安定した気持ちで日々を過ごせるスタンスだった。
自分はナンバー1にはなれないし、なりたくもない。 同時に2も目立つので遠慮したい。
だからナンバー3から4ぐらいの位置を常に維持できる立ち回りをしていた。
ポンポンは取り入る先としては非常に優れており、何よりも自分という駒を上手に使ってくれる上、ちゃんと褒めてくれるのでまんまるはポンポンの事が大好きだった。
だから彼女と似た気質のヨシナリの下に着くの事に一切の抵抗がなく、寧ろ彼と組めてラッキーとすら思っていたのだ。 ヨシナリの実力は模擬戦やミッションで組んだ時に散々見てきた事もあって、彼女の中では自分より格上と認識している。 ランクでは自分が上だが、そんな事は些細な問題だった。
自分より強くて自分を上手く使ってくれるのならまんまるは誰であろうと大歓迎だ。
実際、直接組んでみると能力の高さがよく分かる。 直接の接点が少ない自分と即席のチームで連携できる時点でまんまるからすれば凄い事だ。 大抵はさっき消えた雑魚と似たような感じになってあっさり沈む。 足を引っ張るだけの無能を引いて二人で勝利した時点でまんまるにとってヨシナリは信じるに値すると思っていた。
そんなヨシナリは敵を釣り出す為に突っ込んでいく。
信じていると無言の背中が語っていた。 ここまで信用されてしまうと応えたくなってしまう。
――やるしかないですぅ……。
敵は三機、作戦は待ち伏せ。 なら、包囲するような位置取りのはずだ。
ヨシナリを狙うなら無難に近接戦は避け、数を活かして半包囲からの射撃で仕留めに行くはず。
自分が狙うのはそこだ。 ヨシナリを狙った銃撃が始まった。
銃声から短機関銃と突撃銃。 マズルフラッシュのお陰で位置がよく分かる。
まんまるは撃っている間に狙いを付けて撃つ。 位置的に短機関銃の方が狙い易かったのでそちらに仕掛けた。 良く狙って引き金を引く。
安物の狙撃銃は無駄に大きな銃声を上げ、ライフル弾が目標へ向けて飛ぶ。
狙った先でマズルフラッシュが不自然に上がった。
――当たった。
そこを確認したと同時に走る。 僅かに遅れてまんまるの居た位置に銃弾が突き刺さった。
やはり相手にも狙撃手が居た。 回避に集中したお陰で位置は不明だが、戦力構成を掴めた事は大きい。
「助かりました。 一機撃破です」
ヨシナリが戦果を伝えてくる。 状況がイーブンになった事でまんまるはほっと胸を撫で下ろす。
これで数の上では同じ。 自分の役割は敵の狙撃手を抑える事だ。
そうすればヨシナリが敵を片付けて二対一になる。 可能であれば自分が先に狙撃手を排除して使える所を見せつけたいところだが、自分の技量では難しそうだった。
視界が不良なので移動する際には障害物には注意を払う必要がある。
木々が見えたのですっとその裏に入り、姿勢を落とす。
銃弾が隠れた樹を貫通して地面に突き刺さる。 姿勢を低くしていなければ危なかった。
まんまるは即座に身を乗り出して撃ち返す。 距離がある所為か手応えがない。
ヨシナリの方では激しい銃撃戦が繰り広げられている。
ここで牽制していれば敵の狙撃手の動きを封じる事ができるので、ヨシナリに期待する方が無難そうだった。
――お願いしますよぉ……。
まんまるは祈るように排莢しながら狙撃銃を構えた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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