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つまり、その五秒間。 メガロドン型にはどんな攻撃も通るのだ。
「エネルギー系の武器を持ってる奴は今の内に撃ちまくれ!」
状況を即座に把握したツガルが叫ぶ。
それに呼応する形でその場にいる全てのプレイヤー達が全力で攻撃を開始する。
無数の銃弾、エネルギー弾がメガロドン型の全身に命中し、その巨体に傷を付けた。
「はは、すっげ、これまで碌に効かなかったのに普通に通ってるぞ!」
ツガルはやや興奮気味にそう言って攻撃を続ける。 やがてフィールドが再展開――と同時に破壊。
「すっげ、展開と同時にぶっ壊した」
ヨシナリは思わずそう呟く。 ユウヤが参戦したと同時に戦況が一気に傾いた。
彼の機体特性故ではあるが、動きもまた凄まじい。 ハンマーで障壁を破壊したと同時にメガロドン型の下に入って腕の散弾砲を撃ちこむ。 メガロドン型も真下に入られた時の為の備えは怠っていないようで仕込んでいたらしい無数の機銃を乱射するが当たらない。 そして真下に陣取る事でメガロドン型はユウヤを仕留める為にその場を動けなくなった。
――それが意味する事は回避運動を一切取れずにその場で動けなくなる。
ズンと重い銃声が響き、メガロドン型の下で小規模の爆発。
それにより何かを破壊したようで、変化が起こった。 周囲で荒れ狂っていた嵐が止んだのだ。
「行ける! 行けるぞ!」
ヴルトムが叫ぶ。 あのメガロドン型を追いつめている事にプレイヤー達の士気も上がる。
だが、敵も簡単には落ちない。 魂無きエネミーではあるが、こんな所でやられる訳には行かないのか、全ての武装を用いてプレイヤー達を撃滅せんと火力を解放するが、不意にその片目に銃弾が食い込んで小さな爆発が起こり、ミサイルの誘導性能が大きく落ちた。
グロウモスだ。 嵩張るので持ち運びに苦労していた巨大な大口径の狙撃銃を構えている。
熱を持った銃身が降り積もる雪を蒸発させた。 メガロドン型の動きが僅かに止まった。
彼女は構わずボルトを操作して巨大な銃弾を排莢。 即座に発射。
抉れた目の部分に再度命中、内部にダメージを与えたのかメガロドン型が大きく仰け反った。
明らかに効いている。 メガロドン型はグロウモスに反撃しようと頭部を向けようとしていたが、不意にその尻尾が落ちた。 切断されたのだ。
「フカヒレスープにしたるわ!」
ふわわだ。 いつの間にかメガロドン型の上にいた。
彼女は柄だけになった野太刀を投げ捨て、もう一本の野太刀に手をかけると更に一閃。
背びれを斬り落とす。
「マルメル君!」
「ごっつあんです!」
背びれが斬り落とされた事で内部構造が剥き出しになった個所にマルメルが至近距離からハンドレールキャノンを喰らわせる。 ほぼゼロ距離から放たれた一撃はメガロドン型の内部を貫通。
その腹に小さくない風穴を開けた。 それにより内部機構に深刻なダメージを与えたのか、エネルギーフィールドが完全に消滅。 展開が出来なくなったようだ。
そうなるとユウヤが障壁を破壊する必要がなく、攻撃に参加。
ここまで行くと後はやりたい放題だった。 尻尾が斬り落とされた事で内部機構が剥き出しになった部分にプレイヤー達は執拗に攻撃を仕掛け、ふわわとマルメルが背中に乗ったまま傷口を広げ、グロウモスが狙撃銃で機銃やミサイルポッドを一つずつ破壊していく。
ヨシナリも攪乱は必要ないと敵の主砲にアノマリーをしつこく撃ちこんで破壊。
こうなってしまうとメガロドン型はサンドバッグにならざるを得ず、最後にユウヤがその頭部にハンマーを叩きこんだのが致命傷だったのかゆっくりと墜落。
地面に激突したと同時にその機能を完全に停止した。
ヨシナリは油断なく、メガロドン型をスキャニング。
エネルギー反応なし、動力は完全に停止している。 念入りに確認したが、完全に仕留めたようだ。
味方の損害は十七機。 半分以上がやられたが、前回を考えるとかなり小さな被害だ。
「よし、完全に死んでます。 皆さん、お疲れでした! 俺達の勝利です!」
ヨシナリの言葉にあちこちから勝利の歓声が上がる。
「ユウヤさん。 ありがとうございました」
この戦いの最大の功労者に声をかけるがユウヤは通信施設の方を一瞥。
「あぁ、そんな事よりも約束を忘れるなよ」
「……はい」
このイベントでの協力を依頼した助っ人の一人がユウヤだった。
断られる事が前提の駄目で元々の提案だったが、意外な事に条件付きで協力してもいいとの事。
その条件に嫌な予感しかしなかったが、詳細を聞いてそれが間違っていなかった事を理解した。
実際、ヨシナリにとっては非常に重い条件だったが、それを呑むだけでベリアルに匹敵するAランクプレイヤーの戦力が手に入るのだ。 気は重かったが呑んだ――呑んでしまった。
そしてユウヤはその契約内容を履行しろと暗に告げているのだ。
ちらりと振り返ると無数の味方の反応。
どうやら基地を陥落させたメンバーがメガロドン型の接近を知って慌ててきたのだろうが、終わってから来られてもなぁと少しだけ思う。 そして先頭にはカナタとツェツィーリエ。
ポンポンも一緒なので無事でよかったと思っていたが、ヨシナリは必死に頭を回す。
これから起こるであろう修羅場に備えてだ。 ユウヤの姿を認めたカナタは機体を加速。
ヨシナリと一緒にいる事に引っかかりを覚えているようだが、彼女の視線はユウヤに固定されている。
「ユウヤ!」
「よぉ、クソ女。 その様子だと首尾よく施設は落としたようだな」
普段なら碌に口を利かずに逃げるのだが、今回は事情が違うのでカナタを前にしても上機嫌だ。
カナタはユウヤ、ヨシナリ、メガロドン型の残骸の順で視線を巡らせる。
「まずは助けてくれた事には感謝するわ。 でも、どうして急に手伝ってくれる気になったの?」
――来た。
ヨシナリは反射的に逃げ出したくなったが、それより前にユウヤの機体がヨシナリのホロスコープと肩を組む。
「俺はただボスの指示に従っただけだ」
「ボス? アンタが? 従う?」
「あぁ、俺はこれから『星座盤』の一員として信頼できる仲間とイベントを戦っていくからなぁ」
そしてユウヤは見せつけるようにプルガトリオの肩を突き出すとそこには『星座盤』のエンブレムが刻まれていた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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