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マルメルのレールキャノンが発射され、弾体が光の尾を描いて飛ぶが、敵機は発射前に散開し、射線から逃れる。
「ほい、頂き」
地上を這うように飛んでいた二機をふわわが野太刀で纏めて両断し、上空に飛び上がった機体をヨシナリが腰のアルトムで抜き撃ち。 動きが読み易い相手だったのでそのままコックピット部分を撃ち抜いて撃破。 敵機が全滅した事で試合が終了となった。
「いえーい! もう同ランクのユニオン相手やったら楽勝やね」
「そっすね。 まぁ、俺は撃破数ゼロでしたけど……」
喜ぶ二人を見ながらヨシナリはふむとさっきの試合を反芻する。
この三人での連携はほぼ完成の域に達したと言っていい。
装備を更新したが、これまでに積み上げた経験によりスムーズに連携できたのは大きな収穫だった。
特にマルメルが上手くなっている。 ポジショニングとハンドレールキャノンを上手に使って敵を散らしてヨシナリやふわわが狙い易いように立ち回っていた。
彼が居なければさっきの試合はもっと長引いていただろう。
喜ばしい事ではある。 この感じなら星座盤の連携に関しては合格点と言えるのだが、完成しているという事は伸び代がなくなったとも言えるので現状に甘んじないのであれば更に強くなる為には新しいものを取り入れる必要があった。 そしてその答えも出ている。
――新メンバーだ。
これまでは新メンバー欲しいなと漠然と思っていたが、そろそろ本気で増やさないと不味い。
ヨシナリも何も考えていなかったわけではない。 ユニオンのメンバーを増やすに当たって条件がある。
まず、最低限の協調性。 単純に仲良くやれる奴じゃないと続かないからだ。
次にモチベーション。 腕が良くてもすぐに来なくなる奴は要らない。
後は技量だ。 いきなりふわわやマルメルと同等以上は求めていないが、そこそこ戦える奴がいい。
――欲を言うなら俺が前に出るようになったから後方で支援できる奴が欲しい。
ベストは狙撃手、次点でパンツァータイプ等で火力支援ができるプレイヤーがいれば言う事なしだ。
問題はそんな人材はとっくに他所のユニオンに所属しているので星座盤のような弱小に来てくれる可能性が低いぐらいか。 ユニオン対抗戦の助っ人には当てがあったが、正式メンバーに関してはどうしたものかと途方に暮れている。
探し方に関しては観戦モードで地道に探すか、募集をかけるか……。
最悪、新規を育てるのも案の一つとして検討したが、流石に他人様にそこまで干渉するのは行きすぎだと感じてしまう。 一応、募集もかけてはいるが、変なのに来られても困るので採用期間を設けているのもハードルを上げている一因か。
――まぁ、条件を付けまくってるから人が来ないんだろうなぁ……。
やはり妥協するべきなのだろうかとウインドウを操作して申請が来ていないかを確認する。
今回はマルメル達がいるので報酬は歩合制にしておいた。 前回は全員が手に入れた報酬を合計して頭割りだったが、今回はそのまま稼いだ分だけ入るようにしている。
頭割りでも集まらなかったのに歩合制にしたらもっと来なくなるのは分かってはいたが……。
申請件数は――一件。
「一件?」
思わず言葉を漏らす。 それに気づいた二人がどうしたと寄って来る。
「ほら、例の募集に一人引っかかったみたいだ」
「へぇ、前の時は散々やったって話やったからあんまり期待してなかったけどやってみるもんやね」
「お、新メンバー獲得のチャンス的な感じ?」
「分かんない。 取り敢えず話を聞いてみないと何とも言えないし、ログインしてるみたいだから来てもらうか」
――という訳で呼び出したのだが――
「ド、ドウモ、グロウモスデスヨロシクオネガイシマス」
現れたのは小柄なアバター。 声からして女の子なのは分かるが――
――声ちっちゃ。 聞き取り辛ぇ。
ボソボソと喋るので何を言っているのかよく分からない。
取り敢えず話を円滑に進める為にもとステータスを確認する。
プレイヤーネームは『グロウモス』個人ランクはE。 高いな。
ユニオンは無所属。
そうでもなければ今回の募集に応募できないのだが、Eランクまで無所属というのは少し珍しい。
ざっと戦績等を眺めて居ると――ヨシナリはおやと首を傾げた。
ヨシナリとの交戦記録があったからだ。
「グロウモスさんでいいんですよね? ところで以前に俺とランク戦で当たってるみたいなんですが覚えてます?」
「や、山でちょっと……」
山? ヨシナリは記憶を探ると――あぁと思い出した。
前のユニオン対抗戦の後にやったランク戦で当たった相手だ。
狙撃戦仕様で高所を取ろうと山を登ったら鉢合わせてそのまま戦闘になった。
かなり危なかったから印象に残っている。 そうか、彼女がそうだったのか。
「あぁ、あの時の。 かなりギリギリの勝負だったので覚えてますよ!」
「ア、アリガトウゴザイマス」
「取り敢えずは次回のイベント戦に助っ人で入ってくれるって事でいいんですか?」
グロウモスは小さく頷く。
本当ならもう少し詳しく話を聞きたいところだが、かなり癖のある性格をしているので下手に突いてこなくなったら困る。 その為、気になる事やもっと大きな声で喋れと指摘したい気持ちはぐっと抑え、まずは彼女の実力がどれほどのものかじっくりと見せて貰おう。
「まずは腕を見たいから軽く模擬戦を俺と――」
「いーや、俺だな。 ヨシナリは前に一回やってるんだろ? だったらここは譲ってくれよ」
全員で喋るのは圧を与えかねないと二人には黙っててもらったのだが、もういいだろうとマルメルが口を挟む。 ヨシナリは少し迷ったが、外から見た方が判断がし易そうだと思い頷く。
「分かった。 マルメル、頼むよ。 グロウモスさんもそれでいいですか?」
グロウモスは小さく頷く。
「っしゃぁ! やってやるぜ!」
気合を入れているマルメルとグロウモスが練習用のフィールドへ移動。
妙にやる気だなとマルメルの気合に首を傾げているとふわわが小さく笑う。
「ほら、ここ最近、マルメル君って負けっぱなしやからウチらにちょっといい所をみせたいんと違う?」
「はは、だったら頑張って欲しい所ですね」
「後はさっきの子のお手並み拝見やな。 ヨシナリ君は一回当たったんやろ? どんな感じ?」
「Fランクの時だったのであんまり参考にならないかもしれませんが、狙撃主体って感じでしたね。 ソルジャータイプを使ってた頃の俺の戦い方に近いです」
「へぇ、ならヨシナリ君に散々虐められているマルメル君やったら大丈夫かな?」
「人聞きの悪い事言わないでもらえます? ――まぁ、その辺は何とも。 あの時は遭遇戦でお互いに得意レンジじゃなかったので、色々と見れずに終わったんですよ」
そんな事を話していると可視化したウインドウの向こうではフィールドに二機のトルーパーが出現していた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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