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マルメルの反応が消えた。
どうやらしくじったようだ。 まだふわわが残っているので、ポンポンを抑える事は可能だろう。
ヨシナリは遠くにいるまんまるというプレイヤーの機体に向けて狙撃。
エネルギー弾は機体周辺に展開されたエネルギーフィールドに弾かれる。
発射後は即座に移動。 数秒遅れて光の帯が薙ぐようにヨシナリの居た場所を通り過ぎ、ビルが纏めて倒壊する。
三回ほどこのやり取りを繰り返した事によってまんまるというプレイヤーの癖に関しては見えて来た。
狙いは正確で反応も早いがそれに即応できる機体――高機動タイプの機体を扱っているのなら脅威度はもう一つか二つ上がっていただろう。 恐らくチーム戦と個人戦で機体を使い分けるタイプだ。
今回は仲間の支援を行う為に長射程の機体を使っているといった所だろう。
立ち回りに固さのようなものが見て取れる。 明らかにあまり慣れているような感じではない。
――つまり付け入る隙は充分にある。
相手は格上だろうが同じ人間。 スペックの差は知恵と技術で補うのみ。
それにラーガストやユウヤといったハイランカーの戦いを間近で見た後だとまんまるの動きからは圧倒的な物を感じない。 充分に勝つ見込みがあった。 ちらりとふわわの方を見る。
健在ではあるが、ポンポンが露骨に距離を取って遠距離で削りに行き始めた。
マルメルが脱落した事でふわわに集中できるようになったからだ。
この勝負はどちらかが片方を落とせれば決まる。 つまり、互いの勝敗がチームの勝敗に直結するのだ。
仕留めるのに必要な情報は一通り集まった。
まんまる。 機体はエンジェルタイプの上位機種であるプリンシパリティ。
装備は両肩のエネルギーキャノンが二門。 チャージに三秒、発射に一秒。
威力は極めて高く、当たれば即死。 攻撃範囲は弾ではなくエネルギーを照射するタイプなので機体ごと砲を動かす事で大きく広がるが旋回性能がお世辞にも高くないので躱せない攻撃ではない。
――ただ、照射中は攻撃範囲に存在する物が片端から蒸発するので神経は磨り減るが。
照射時間は恐らく最大で五秒。
ただ、まんまるは次弾発射までの時間を短縮する為に三秒から四秒で止めている。
他に武装は携行武器としてエネルギー式の突撃銃を持ってはいるが使ってこない。
形状からマガジン交換式なのはジェネレーターへの負担を減らす為だろう。
恐らくは接近された時の備えと思われる。 近接武装の類は見当たらないが、あったとしてもあの鈍重な見た目ではそこまで脅威とは思えない。
次に防御面。 エネルギーフィールドは鉄壁ではないが、プリンシパリティは機動性を捨てて、防御と火力に全振りした機体なので同系統の機種の中ではトップクラスの防御性能を誇る。
アノマリーでは撃ち抜く事は不可能。 つまり遠くからチクチクと刺すだけでは仕留める事は出来ない。 それは相手にも言える事で攻撃の予備動作が大きいので回避は比較的ではあるが容易だ。
本来ならそれを補うためのニャーコというプレイヤーだったのだろうが、早々に脱落したのでどちらが先に有効打を決めるかの削り合いとなっている。
エネルギーフィールドは展開していても消耗するが、飛んできた物を防ぐと更に使用可能時間が短くなる。
エネルギー系の武器であるなら出力で上回らない限りはほぼ無敵。
実体弾などの質量を持った武器であるなら重量や接触面積で減衰に留まるが、銃弾程度では抜けても当たるだけで損傷させるところまで行かない。
物体であるなら大きくて重たい物であればある程に消耗が上がる訳だ。
――やっぱり至近距離で喰らわせるしかないな。
動きの癖は掴んだのでそろそろ行くべきだろう。 ふわわの援護に回ってポンポンを仕留める事も視野に入れていたがああもチョロチョロされては簡単に当てられる気がしない。
その間にまんまるを完全にフリーにするのは論外だ。 方針は変えずにそのまま行く。
ヨシナリは高度を取って敵の砲撃を誘う。
まんまるはあっさりと乗り、エネルギーの充填を開始。 二門の砲口にエネルギーの輝きが灯る。
数を数える。 一、二、三――充填完了だ。 同時にメインのブースターを噴かして急加速。
発射。 光がヨシナリを焼き払わんと襲い掛かる。
射線は直線なので相手の旋回速度より早く動けばまず当たらない。
普段ならそのまま周囲をぐるぐる回ってエネルギーがなくなるまで撃たせるのだが、今回は一気に前へ踏み込む。
まんまるは僅かに動揺したのか機体が揺れる。 恐らく彼女の狙いとしてはだらだらと戦いを引き延ばしてポンポンがふわわを仕留めるのを待つか、ヨシナリが隠れられる障害物がなくなるまでこの応酬を繰り返すつもりだったのだろう。 その証拠に不自然なまでに建物を破壊している。
三、四――照射が停止。 チャージは照射時間に比例する。
三秒なら約九秒、四秒なら約十二秒。 要は一秒照射に付き三秒のチャージが必要なのだ。
使い切ると十五秒。 ターン制でもないこのゲームで十五秒の隙は大きすぎる。
使ったのは四秒。 追いかけずに途中で止めたのは英断だが、これで十二秒は使えない。
まんまるは即座に突撃銃を構え、連射。 鈍重な見た目からは想像もできない素早い動きだ。
構えてからエイムするまでの時間がほぼノータイム。 やはり、遠距離戦よりも中距離戦が本領か。
だが、小回りならホロスコープの方が上だ。 ヨシナリは敵の射線を意識しながら機体を上昇させ、上下左右に機体を振って的を絞らせない。 躱すときは空間を上手く使って相手の命中率を下げる。
円を描かずに可能な限りランダム性を持たせて動きを読ませない。 相手の弾が切れたと同時に応射。 銃身を切り離して実弾に切り替える。
無数の銃弾がまんまるの機体へと飛んでいくが当然のようにエネルギーフィールドに弾かれてまともに通らない。 想定していたので気にせずに連射。 弾が切れたと同時にエネルギー弾に切り替えて撃つ。
撃ちながらマガジン交換し、実弾を更に発射。 とにかく相手に回復の隙を与えない。
アノマリーはエネルギーと実弾の撃ち分けができるので、こうしてタイミングよく切り替えれば連射の切れ目をなくす事ができる。 二つ目のマガジンが空になり、エネルギー弾を撃ち込んだ所でまんまるが機体を捩じるように回避。 どうやらフィールドが剥がれたようだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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