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汎用型エネルギーウイング『タラリア』。
総合的なスペックはエンジェルタイプに使用されている物に劣るが、全ての機種に搭載できるといった強みがある。 スペックが劣るのは下位機種ではエネルギーウイングの消費エネルギーを賄いきれないからだろう。
一応、小型のジェネレーターを積んでいるので本体とは別でのエネルギー供給を受けてはいるが、スタミナはあまりない。 それにエネルギーウイングは爆発的な加速を齎すが、それを制御できなければ自滅するだけなので万人にお勧めできる装備ではないのだ。 ヨシナリもスペックを見ればエンジェルタイプがBランク以上でないと扱えないように制限がかかっている理由に何となくだが納得できる。
性能面では非常に素晴らしいが扱いが難しい。 運営が使いこなせるラインと判断したのがBランク以上という事だろう。 現在、ヨシナリが見てきた中でエネルギーウイングを最も使いこなしているのはラーガストだ。 彼は六基のエネルギーウイングを器用に扱って加速や旋回を行う。
移動だけでどれだけの高等技術が詰まっているのか想像もつかない。
少なくとも数合わせで呼ばれたようなプレイヤーもどきではまともに扱えないだろう。
反面、スパルトイは誰でもある程度は扱えるので初心者から上級者まで幅広く活用できる汎用装備といえる。 少なくともスパルトイとタラリアのどちらを使うと訊ねられたらヨシナリは迷わずスパルトイと答えるだろう。 今のヨシナリの戦闘スタイル的にはタラリアの方が適してはいるが、ぶっつけ本番で使いこなせる気がしないのでスパルトイを使用するのが無難だと判断した。
二人は新しく手に入れた装備を喜んでいたが、不意にマルメルが少し考えるように沈黙。
「なぁ、ヨシナリはどの班に混ざるつもりなんだ?」
「答える前に二人的にはどうなんだ?」
ヨシナリはもう答えを出しているので後は二人の判断だけだと思っていた。
だから質問に質問で返すような形になったのだが――
「俺は何処でも。 基地の防衛はボス襲来の危険があるし、外の探索は遭難のリスク、地下の通路は何が出てくるか分かったものじゃない。 どれを選んでも相応のリスクがあるし、どれがマシかの判断もつかないからヨシナリに付き合うよ」
「ウチは敵と出くわしそうな外か地下かなぁ」
どちらもらしい回答だったので内心でヨシナリは苦笑しつつ自分の考えを口にする。
「地下だな」
「理由は?」
「単純に情報が取れそうだからだ。 外は敵に出くわすか怪しい、防衛はそもそも待ちだから変化が起こり辛い。 なら少なくとも出口が存在する地下の方が何かありそうじゃないか?」
「負けるにしても最低限の情報は持って帰りたいとか思ってるん?」
「それもあります」
ヨシナリはこのイベントに負ける気は毛頭ないが、だからと言って絶対に勝てる保証もないので負けた場合に備えて少しでも情報を取っておきたかったのだ。 仮に負けた場合、また二ヶ月以内に復刻されるのが目に見えている。 そうなった場合、少しでも有利に立ち回れるように色々と情報を仕入れておきたかった。
「それやったらええんと違う? ウチは賛成!」
「まぁ、俺はヨシナリに付き合うって決めてるからお前が行くならどこでも」
こうして特に揉める事もなく方針は決まった。 後はカナタ達にどこへ向かうのかを報告して完了だ。
この場で生き残っている機体は合計で五百三十機。
それを三分割する形になるのだが、まず外への探索へ百五十機。
ヨシナリが持ち帰った大暗斑の情報を元に似たような物がないかの調査が主となる。
次に基地の防衛。 これは最も人数を割く必要があるので二百八十機。
やる事はセントリーガンや地雷などを設置して基地の防衛力を強化する事だ。
恐らくボスエネミーと戦う際はこういった拠点の存在が非常に重要になるはずなのでしっかりと行う必要がある。
最後に最も危険な地下通路の調査だ。 こちらは残りの百機。
数が少ないのは敢えてだ。 地下の通路は広くはあるが限られた空間なので人数が多ければ多いほどに身動きがとり辛くなるのでこの判断は妥当といえる。 付け加えるなら今は偵察がメインなので強行突破は選択肢に入っていない事もあってこうなった。
参加者はヨシナリ達『星座盤』とヴルトムたち『大渦』それと『栄光』からはツガルが参加となる。
カナタは防衛の為に残るので動かない。
「まぁ、仕切る人間がいないとトラブりそうだししゃーねーだろ」
そう言ったのは先頭を進むツガルだ。 方針が決まれば早々に行動を開始した。
一行は施設内の一角――地下への縦穴がある場所へと移動。 大穴が口を開けており、耳を澄ませばごうごうと空気が流れる音が微かに響く。 穴の底は見えず、闇だけがぽっかりと口を開けていた。
ツガルが試しにライトを点けて照らすが底が一切見えない。
「……最初に行きたい人ー」
誰も何も言わない。 ツガルはふうと小さく溜息を吐く。
「んじゃ俺から行くから何人か一緒に来てくれ」
そう言ってツガルは穴へと飛び降りた。
近くにいたプレイヤー達は顔を見合わせると後に続くように次々と飛び降りる。
「行かないのか?」
マルメルが肘で軽く突きながらそう尋ねてくるがヨシナリは小さく肩を竦める。
「半分ぐらい行って安全を確認できたらな」
折角、先行してくれているのだ。
ここは最後まで安全を確認してもらってからゆっくり降りる場面だろう。
マルメルはそれもそうだなと笑う。 そうしている間に随分と降りて行ったのでそろそろ頃合いだと判断したヨシナリはマルメルの肩を小さく叩いて穴へと飛び降りた。
真っ暗な縦穴を降りていく。 途中、スラスターを噴かして落下速度を緩めながらどんどん下へ。
――長いな。
そう感じるほどの時間を経てホロスコープが広い空間に出た。
真っ暗な場所だったが、先に降りた機体がライトを点けたりしているので光源に困る事はなく、味方が居る事に少しだけほっとする。
着地、正確には着水だった。 足元は何かが流れており、恐らく水か何かだろうがそこそこ深くホロスコープの膝まで届いていた。 歩いてみると移動には支障はないが戦闘時には少し邪魔になるかもしれない。 ヨシナリは少し嫌だなと思いながら上を見上げるとちょうどマルメルとふわわが降りて来たところだった。
誤字報告いつもありがとうございます。
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