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――行ける。
ウィルはそう確信していた。 仲間が追い込み自分が決める。
最初にそんな話になった時はやや緊張に震えた。 あのラーガストを仕留めるのだ。
下手なエネミーとは訳が違う強敵。 あのイベントのボスですら撃破して見せたプレイヤーだ。
倒すというのはAランカーである彼女ですら中々に想像が難しい事だった。
正直、一対一だと敵わないといったやや後ろ向きな格付けは彼女の中では済んでいたのだが今回は別だ。
少ない人数、単騎での突出、そしてこの地形。 全ての条件が自分達に勝てと言っている。
ラーガストさえ倒せればこの勝負は勝ったようなものだ。 ユウヤは強いが一人でも充分に抑えられる。
残りの良く分からないFランクは言わずもがな楽勝。 ラーガストの力だけで勝ち残ったおまけ玩具程度、依存先がなくなれば敵ではない。 何が言いたいのかというと、この一撃で勝負が一気に傾くという事だ。
エイコサテトラの最大の持ち味はそのスピードだ。 それ故に装甲は大した事はない。
当たりさえすれば一撃でやれる。 仮に仕留める事が無理だったとしても鍔迫り合いにさえ持って行けば足は止まるのでその時は自分ごと撃たせればいい。 仮に自分がやられたとしてもこちらの残りは九機、相手は二機。 安い取引だ。 推力を最大、武器をブレード形態にして一気に斬りかかる。
完璧なタイミング。 行ける。
ラーガストは何故か一瞬、何処かをちらりと見たような気がしたが、回避が間に合わずにブレードで受けた。 本来ならここで仕留めるのがベストだったが、受けさせただけでも充分だ。
「ちょっと舐めすぎなんじゃない? 戦力差三倍以上で勝てると思ってるの?」
「お前ら程度ならちょうどいいハンデだ」
「言ってくれるじゃない。 バラバラになった後でも同じ事が言えるかな?」
ラーガストは応えずに鼻を鳴らす。
その態度に若干の不快感を覚えたウィルはラーガストを睨む。
「たった一人で勝とうなんて烏滸がましいのよ! 悔しいけど個人ならあんたは最強。 でも、チームなら私達が――」
「馬鹿が、お前らこそチーム戦って事の意味を理解しているか?」
「一体、どういう――」
噛み合わない会話にウィルが眉を顰めたと同時にそれは起こった。
ズシンとした衝撃。 何だとウィルは確認すると彼女の機体が撃ち抜かれていた。
コックピットへの直撃は避けられていたがメインの動力を貫通していたので爆発は避けられない。
撃破はもう決まったようなものだ。 何故? どうして?
どこから? 一体、誰が? 無数の疑問が脳裏を埋める。
同時に機体から力が抜けていく、それが致命的。 気が付けば袈裟に両断されていた。
「何か勘違いしてるみたいだから言っておいてやるが、今のはわざと受けたんだ」
「そ――」
爆発。 彼女の言葉は声にならずに機体諸共爆散した。
「はは、やべぇ。 俺、このイベントで大金星ばっかりだな」
ヨシナリは発射したばかりで銃身が熱くなっているアノマリーを構えながらそう呟いた。
戦闘開始直後にラーガストとユウヤは早々に先行し、アルフレッドも姿を消したので慌てて追いかけたのだが、エイコサテトラのスピードに追い付ける訳もなくあっと言う間に離された。
どうせ混ざっても大した仕事はできないので狙撃に徹するかといい位置を探そうとしているとアルフレッドがいきなり現れ、こっちに来いと誘導してきたので高台へ移動。
良い位置だった。 敵味方全ての機体が渓谷の底まで移動していたので全ての動きが俯瞰して見える。
わざわざあんな狭い所で戦っている訳はラーガストのスピードを制限する為だろう。
実際、完全に開けた場所で彼を捉える事は非常に難しい。 無策で挑めばいくら頭数を揃えても各個撃破されるのは一回戦を見れば明らかだった。 ならば有利な場所に誘い込み、全員で早々に仕留めるというのはなるほど悪い手ではない。 ある程度、突出させて味方――つまりはヨシナリ達から引き離してから仕掛けに行く点も抜かりなく、考えた奴は真剣に勝ちに行っている事がよく分かる。
ただ、この戦い方には一つ大きな穴があった。 ヨシナリの存在だ。
彼のホロスコープは狙撃に寄った遠距離戦機体。 一回戦でもそれは晒しているので敵には知られているはずだ。
――にもかかわらずヨシナリに対して牽制役の機体を差し向けてこない。
ラーガストに集中したいから余計な戦力は割けないと無視したか、ヨシナリの事をいないものとして認識しているからのどちらか。 いや、もしかしたら両方なのかもしれない。
どこに行ってもラーガストやユウヤのおまけ扱い。 実力差を考えるなら当然だが、決して愉快な話ではない事もまた事実だ。 だから――
――あいつらの度肝を抜いてやると決めた。
ヨシナリがアノマリーを構えるとアルフレッドが音もなく近寄ってくる。
何だと思っているといきなりウインドウが出現。 内容はアルフレッドがセンサー類の同期許可を求めているといったものでよく分からなかったが許可するとホロスコープの視界と知覚が一気に広がった。
センサー類は良いのを積んでるんだろうなと思っていたが、ヨシナリの想像以上のスペックだ。
凄まじい量のデータが入ってくる。 機体の熱分布、エネルギー放射量、地形の詳細データ等々。
「やっば、何だこれ……」
全部見える――だけではなく大量の情報によって目に見えない事まで視えるのだ。
敵のメインのブースターの出力が上がってる。 加速する――やっぱりした。
エネルギー式のショットガン。 内蔵のエネルギーが減ってるからそろそろ撃てなくなる。 やっぱりだ。 Aランクの機体は防御重視か、もう一機は急上昇。 恐らくは太陽を背負って強襲狙い。
他は上昇を誘う為に追い込んでる。
「はは、何だこれ? やべぇぐらい見える」
ヨシナリはすっとアノマリーを構え、この戦場で最も美味しい場所へと照準を合わせる。
高機動型、対弾性能は低い。 当てさえすれば一撃でやれる。
速いから簡単には捉えられないが、動きが止まる瞬間が必ずあるはずだ。
攻撃を回避された瞬間。 そこを刈り取る。
今の俺なら当てられるんじゃないか? そんな根拠のない自信が湧いてきた。
凄まじくいい気分だ。 読み通りAランクの機体が直上からラーガストへ襲い掛かった。
狙うのは回避されたと同時だ。 引き金に指をかける。
瞬間、ラーガストはヨシナリの方を一瞥。 一瞬の事だったので勘違いかもしれないと思ったが、そうではないとすぐに分かった。
エイコサテトラは躱さずに受けたのだ。 どうやら華を持たせてくれるらしい。
――ありがたい。
介護されているような感じで少しだけモヤモヤするが、格段に当て易くなった。
距離はあるが今の自分なら止まっている相手ならまずやれる。
発射。 狙いはコックピットではなく派手な爆発を誘発する動力部。
ヨシナリの放った一撃は狙いを過たずに敵機を射抜いた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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