76. あなたのそばに
「ファイヤーボール!」
次々と火の玉が空から降ってくる。
『ギャアアアッ!!』
それは全てオークキングに命中し、全てを焼き払った。
僕は突如目の前に現れた、髪の長い女性の背中を見つめる。
「まあやさん……!」
まあやさんはゆっくり振り返ると、僕の胸に飛び込んできた。
「バカッ……探したのよ!」
まあやさんは泣いていた。
だから僕は強く強く、まあやさんを抱きしめた。
「まあやさんっ……」
今度はもう、空を切ったりしない。しっかりとまあやさんの体温を感じられる。
──ああ、夢みたいだ。
まさかこうやってまあやさんを抱きしめることができるなんて…………夢? 夢なのか?
「まあやさん!?」
「……え?」
「まあやさん、本物だよな……? どうしてここにっ……」
「本物よ。私……アキラくんを助けたくて、もう一度この世界にダイブしたの」
「えっ」
「私との約束、覚えてる?」
「約束……」
僕は今までの記憶を遡ってみた。
最初にまあやさんに助けられたこと、そらじじいのログハウスでまあやさんを守ったこと、それかられんじたちと竹林のパンダを倒したこと──。
「死なないでって、最後まで諦めないでって約束したでしょ」
「あ……」
「治癒魔法、かけて」
僕は最後のヒールを自分の体にかけた。
消えそうだった僕の命は50%回復する。
「あそこでアキラくんが死んでしまったら、もう二度と会えなくなるんじゃないかってこわくなったの。それでダメ元で壊れかけの装置に飛び込んだのよ」
「壊れかけのって……大丈夫なの!?」
まあやさんはニコッと笑う。
「私、現実世界で死ぬなら、この世界でアキラくんと一緒にいたい……」
「まあやさ……」
「アキラくん、好きよ」
「!」
まあやさんはゆっくりと顔を近づけると、僕の唇にキスをした。
「……っ!!」
驚いてると、まあやさんが「なによ……嫌だった?」って照れながら聞くもんだから、
「まあやさんっ!」
僕は思いっきりまあやさんを抱きしめた。
「嫌じゃないっ! ずっと、ずっと……まあやさんのことが好きだった……!」
「……だった? 過去形?」
「ちがっ……好きだ!」
フフッとまあやさんが笑う。
そんな笑顔のまあやさんを見て、僕は自分のことをちゃんと説明しなきゃいけないって思った。
「……ねぇ、まあやさん。僕……実はNPCなんだ。それでも、愛してくれる?」
「!」
まあやさんは一瞬驚いたようだけど、すぐに微笑んだ。
「もちろんよ。それにアキラくんは今までも今この瞬間も、生きてるでしょ」
「!!」
その言葉を聞いて、ブワッと涙が溢れた。
「まあやさんっ……!!」
「私たち、ずっと一緒よ。ずっと──」
僕たちはお互い身を寄せ合い、周りの景色が青い光に包まれていくのをずっと見つめていた。
ありがとう、まあやさん
僕はずっとあなたのそばにいるよ
ずっと、そばに────




