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僕らのらんど  作者: 鳴神とむ
69/77

69. 月影の告白

「皆さん、大丈夫ですか!?」



 月影とれんじがこっちに走ってきた。



「ダークウルフが突然消えたんです。ネクロマンサーを倒せたんですね?」


「ああ……だけど貴史さんとまりさんが死んだ」


「!」



 それを聞いた月影は無言で手を合わせた。



「こっちも軍のやつらが二人死んだ」



 れんじが悔しそうな表情を浮かべる。



「負傷者もいる。今そらじいさんが回復して回ってるが、回復薬はあるか?」


「あ、それならやんすさんが……」



 そう言いかけた時、何か違和感を感じた。



「アキラ?」



 何か足元から振動が伝わってくる。

 それはみんなも気づいたようで、それがなんなのか確かめるために息を潜めた。

 何か巨大なものが近づいてきているような気がして、僕の心臓は激しく波打った。



「……止まった?」



 そう思った瞬間、ビルとビルの隙間からギョロリとした巨大な目が見えた。



「うわっ……!!」



 ───ドゴオオオオンッ!!



 突如、大きな音と共に目の前のビルが崩壊した。



「!!」


「逃げろっ!!」



 コンクリートの瓦礫が隕石のように降ってくる。



「うわああああっ!!」

「きゃああああっ!!」



 もう魔法を唱える余裕もない。

 コンクリートの瓦礫は逃げ惑う僕たちの行方を阻んだ。



 そして───目の前が真っ暗になった。



「……うっ……」



 どれくらい経ったのか、僕の意識はまだあった。体もなんとか動く。目を開けると、コンクリートの瓦礫の山がいくつも見えた。



「!」



 奇跡的、僕の体は無事だった。

 ゆっくり起き上がると、まるで地震でもあったかのように周りの建物が崩壊していた。



「……みんなを……探さないと……」



 恐らくこの状態だと、みんなひどい怪我をしてるに違いない。早く見つけて助けないと……。



「……まあやさんっ……月影……れんじ……やんすさん……!」



 みんなの名前を順番に呼ぶが、返事はない。



「くそっ……みんなどこにいるんだよ……!」



 その時、僕の脳裏にあることがよぎった。



「まさか、みんな死んだんじゃ……」



 死んでしまうと光に包まれて消えてしまう。だから遺体さえも見つけることはできない。



「うそだろ、僕だけっ……」



 僕だけログアウトできなかったのか?

 みんな死んだのに、この先どうやって一人で戦えばいいんだよ……!



 ビルが崩壊する前に見えた、不気味な巨大な目。たぶんあれがビルを破壊した。

 僕は一人であれと戦わなければいけないのか?



「……キ……ラ……」


「!」



 その時、背後から微かにれんじの声がした。



「れんじ!?」


「……ア……キ……ラ……」


「れんじ!! どこだよっ!?」



 ぐるりと周りを見渡すと、下半身だけ瓦礫の山に埋もれているれんじを発見した。



「れんじ!!」



 僕はホッとして、すぐにれんじのもとに駆けつけ、瓦礫をどかそうとした。



「……どかさなくていい……」


「なんで!?」



 よく見たられんじの下半身は巨大なコンクリートの塊に押し潰されていた。

 これでは僕の力ではどうすることもできない。



「……そんなっ……」



 そしてれんじのHPも残りわずかだ。



「れんじっ……死ぬなよ!!」


「……まさか、俺がこうなるなんてな……」



 れんじは顔をしかめながら苦笑した。



「……アキラ……後のことは……頼む……」


「……っ……」


「……これを……」



 そう言うとれんじは最後の力を振り絞って、僕に拳銃を手渡した。



「……これで……戦え……最後まで……諦めるなっ……」


「れんじっ……」


「……向こうで……待ってるからよ……」



 そう言うとれんじは微笑みながら目を閉じた。



「れんじっ……!!」



 れんじの体が光に包まれて消える。

 僕はこの光景を何度見ただろうか。

 また一人、また一人と戦っては死んでいく。そしてそれは生命体エネルギーとして蓄積されていく。



 現実世界ではどうなってるんだろうか。

 まだ僕たちは戦い続けなければいけないんだろうか。



 僕は涙を拭って、拳銃を握りしめた。



「そうだ……まだ諦めるのは早い」



 他のみんなを探しにいこう。

 もしかしたらみんなも僕を探してるかもしれない。



 れんじに託されたんだ。

 みんなを頼むなって……。



 落ち着きを取り戻した僕は周りを見渡した。するとよく見ると、剥き出しになった鉄筋に黒い布がくくりつけられてるのが見えた。



「これは月影の……」



 それは月影が着ていたロングコートの生地の一部だった。更によく見れば、等間隔で目印がついている。それを辿っていくと、地下鉄の入り口に着いた。



「ここにみんなが……?」



 階段の先は真っ暗だ。



「ライト」



 僕は指先に小さなライトを灯した。

 メイスをどこかに落としてしまったため魔力は弱いが、僕の顔の周りがポワッと明るくなった。



 ゆっくりと慎重に降りていくと、なにやら暗闇の中でボソボソと話し声が聞こえた。



「……誰かいるのか?」



 恐る恐る声をかけると、



「……アキラくん?」



 少し経ってからまあやさんの声がした。



「まあやさんっ!」



 まあやさん、生きてたんだ!!

 良かった!!



「あっ……待って! まだ来ないで!」


「!?」



 そう言われて思わず足を止めて待っていると、暗闇の中からまあやさんがこっちに歩いてきた。



「まあやさんっ……」


「アキラくん……」



 まあやさんの瞳は少し潤んでいる。



「まあやさん、無事で良かった……!」


「……もう、どこにいたのよっ……! 死んじゃったかと思ったじゃない……!」



 泣きそうになるのを我慢しながらそう言うもんだから、僕はまあやさんを抱きしめたくなった。



「……アキラさん、生きてらしたんですね!」



 奥から月影の声がする。



「月影?」



 壁をつたいながら、月影が姿を現した。

 が、両目は閉じている。



「その目……どうしたんだ?」


「飛んできた瓦礫にやられて……全く見えないんです」


「!」


「ここまでまあやさんが誘導してくれて、今はなんとか……」


「月影くんがね、飛んできた瓦礫から私を守ってくれたの。でもその時に月影くんの両目に当たって……」



 まあやさんの目からは涙が滲み出る。

 僕はそれを聞いて少し嫉妬した。



「月影……ちょっと回復魔法かけるぞ」



 僕は月影の両目にヒールをかけた。



「……」



 月影はまあやさんを守った。

 でもそのせいで月影は両目を怪我してしまった。だからまあやさんは自分が怪我をさせてしまったと泣いていたに違いない。

 もしかしてさっき「来ないで」って言ったのは、二人の距離が近づいたからかもしれない。



「……っ……」



 こんな時にそんなこと考えて嫉妬するなんて最低だな僕。なんで僕はまあやさんを守らなかったんだろう……。



「アキラさん……もう大丈夫ですよ。少し見えてきました」



 月影がゆっくりと目を開ける。



「よかったっ……」



 涙を流すまあやさんを月影が優しい眼差しで見つめる。それを見て僕はハァッと重いため息をついた。



「アキラさん、ありがとうございます!」


「アキラくん、ありがとうっ……」



 すると緊張の糸が途切れたのか、まあやさんはフッと気を失った。



「まあやさん!」



 倒れそうになるまあやさんを僕よりも早く抱きとめる月影。



「少し寝かせてあげましょう」



 月影はまあやさんを横抱きにして、自分のロングコートの上に寝かせてあげた。



「月影……ちょっと話さないか」


「……ええ」



 僕たちは少し離れた場所まで歩いた。

 月影も今僕がどんな話をしようとしているかわかっているようだった。



「すみません、アキラさん」



 月影が先に謝ってくる。



「は? なんで謝るんだ……」


「俺はまあやさんのことが好きです」


「!」



 いきなりど直球でそう言われて、僕はかなり動揺した。






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