6. イケメン登場
「アキラくんっ……もう、だめっ……!」
まあやさんが苦しそうな声をあげる。
僕はそれでも走るのをやめるわけにはいかなかった。後ろを振り返ると、まだしつこく追いかけてきているゴブリンがいた。
ただし、一匹だ。
一匹ならなんとかなるかも……。
「まあやさん、僕があいつを引き付けるから、火の魔法で攻撃して!」
「えっ……大丈夫なの?」
まあやさんは不安そうだ。
「殺られる前に、殺るしかない」
もうトシヤはいない。
体力も限界に近い。
だったらゴブリンが一匹しかいない今、戦う他ない。するとまあやさんがグイッと僕の上着を引っ張った。
「お願い、無理しちゃだめ。危険だと思ったらすぐに逃げること」
まあやさんは声のトーンを落として静かに言った。
「わかった」
僕は深呼吸を3回繰り返したあと、ゴブリンに近づいていった。
幸い、ゴブリンは弓矢を持っていない。
僕も武器はないけど、奴が背中を向けている隙に背後から襲うくらいはできるだろう。
僕は気づかれないように慎重に近づき、そしてたまたま落ちていた頑丈そうな木の棒を拾って武器にした。
そういえばトシヤが遠距離から弓矢で攻撃された時、警告音が鳴らなかった。
──バグか?
あと、こっちから攻撃を仕掛ける場合はどうなるんだろう。まさか鳴るなんてこと……。
《ブー!ブー!》
《モンスターが接近中!》
《モンスターが接近中!》
スマホからけたたましく警告音と音声が流れた。
「くそっ!」
自分からフラグを立ててしまった。
ゴブリンはすぐにこっちに気づいて襲いかかってきた。
「アキラくん、よけて!」
瞬間、ゴオッと火の玉が飛んできた。
火の玉はゴブリンの腹に命中。
「やった!」
しかし威力が弱かったらしく、ゴブリンは火の玉を簡単に払いのけたあと、ギロリとまあやさんを睨み付けた。
『グェェェェェ!』
ゴブリンはまあやさんに狙いを定めて走っていく。
「まあやさん、逃げて!」
ゴブリンを追いかけて走るも間に合わない。まあやさんは青ざめた顔をして恐怖で立ちすくんでいた。
「まあやさんっ……!!」
嫌だっ……
まあやさんまで死ぬなんて……嫌だ!!
「ハアッ!!」
その時、バキッ!!──と物凄い音がした。
「……えっ……」
スローモーションのように、ゴブリンが目の前を吹っ飛んでいく。
『ギャアアアアッ』
空中に飛ばされたゴブリンの体は激しい音と共に地面に叩きつけられた。
「……いったい何が……」
「大丈夫ですか!?」
すぐそばで男の声が聞こえた。
振り返ると知らない男が立っていた。
165センチの僕より背が高く、パッと見イケメンだった。しかし服装はちょっとダサい。季節はもう秋だというのに上半身は黒のランニングのみで、体を鍛えてるのがわかった。
今ゴブリンを吹っ飛ばしたのはこいつだろう。
「立てますか?」
腰が抜けたのか、いつの間にか地面に尻餅をついていたまあやさんに男は手を差しのばす。
「……ありがとう……」
まあやさんをゆっくりと立ち上がらせると、男は僕に振り返った。
「あなたは彼女を安全な場所に。俺はゴブリンの様子を見てきます」
「あ、はい……」
彼は男の僕から見ても男らしかった。
「まあやさん、大丈夫?」
僕はまあやさんを危険な目に合わせてしまったことを悔やんだ。
「……死ぬかと思ったわ」
まあやさんの言葉が胸に突き刺さる。
戦うことも守ることもできないなんて、僕はなんて無力なんだろう。




