5. トシヤの覚悟
「待ってろ、トシヤ! 今すぐ治癒魔法をかけてやるからな!」
お尻に突き刺さった矢を引き抜こうとすると、トシヤに腕を掴まれた。
「ダメだ、触るなっ……」
「なんでだよ! ちょっと痛いかもしれないけど我慢しろよ!」
「……毒が回ってきてる」
「えっ……」
トシヤは苦痛な表情を浮かべた。
「身体が痺れて、だんだん動けなくなってきた……」
「!」
僕の腕を掴んでいたトシヤの力が徐々に緩んでいく。
「アキラくん、見て!」
まあやさんに服を引っ張られて後ろを振り返ると、さっきのゴブリンたちが弓矢を構えていた。
「嘘だろ……」
しかも数が増えている。確実に僕たちを殺す気だ。
「どうしよう、アキラくんっ……」
ずっと強気だったまあやさんが泣きそうな顔をしている。
その時、四つん這いになっていたトシヤがズルズルとほふく前進をした。
「トシヤ……!?」
「森の中に逃げるぞ……」
こんな時でさえ、僕たちを引っ張ってくれるトシヤ。僕はもう半分諦めかけていたというのに……。
僕とまあやさんはトシヤを支えながら、茂みの中に入った。でも安心はできない。森の中に移動する姿を見られているのだ。すぐに追いかけてくるに違いない。
「……今のうちに逃げろ……」
「は? 何言ってんだよ……トシヤを置いて逃げるわけないだろ! 毒は消せないけど、傷は治せるから待っ……」
「だめだ、それは自分たちのために使え」
「!」
真剣な表情をしていたトシヤがフッと笑った。
「いいか、オレは今から試すんだよ……。ログアウトできないこの世界で死んだらどうなるのかって。もしかしたら元の世界に戻れるかもしれねーだろ?」
「トシヤ……」
まさかそんなことを考えていたなんて……。
「……ほら、もう行け。元の世界に戻れたら、運営を取っ捕まえてお前らを助けてやっからよ」
「トシヤくん……」
まあやさんは目に涙を浮かべていた。
「……わかった。じゃあ、それまで生き抜いて待ってるからな!」
「ああ、まあやを頼むぞ」
まるで自分の恋人みたいに言いやがって……。
僕はまあやさんの手を取った。
まあやさんはまだこの状況を受けいれられないでいる。僕だって親友を置いて逃げるなんてできない。でも……。
「まあやさん、走って!」
僕は無理矢理まあやさんの手を引っ張った。木の間をくぐって走っていると、ギャアギャアという声が後方から聞こえてきた。
やっぱり追いかけてきていた。
しかも闇雲に矢を放ってきている。
「数打ちゃ当たるとか……甘いんだよ!」
とか言いつつ、ビビってる僕。
とにかく今は走るしかない。
森を抜けて民家まで行けばなんとかなる。
その時、
「うあああああ……!!」
トシヤの叫び声が聞こえたような気がした。
「……トシヤっ……、ありがとう……」
僕の視界は、涙で歪んで見えなくなった。




