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僕らのらんど  作者: 鳴神とむ
40/77

40. クエストクリア

「バカな人間どもよ! 貴様ら全員喰ってやるわ!」



 巨大蜘蛛化した呉葉さんが、体を揺らしながら猛スピードでこっちに向かってくる。



大地グラウンド(エッジ)!!」



 兎太郎が土魔法を発動させた。



「!」



 瞬間、地面が揺れたかと思うと、あちこちでボコボコとマグマのように地面が盛り上がり、土が刃のような形となって巨大蜘蛛に襲いかかった。



「ギャアアアアアッ!!」



 巨大蜘蛛化した呉葉さんの悲痛な叫びが辺りに響く。土埃が舞う中、巨大蜘蛛が土に埋もれていくのが微かに見えた。



「……やったのか?」



 辺りはシーンと静まり返った。

 どうやら僕たちは今度こそ巨大蜘蛛を倒せたらしい。



「巨大蜘蛛に、勝った……」



 アカツキちゃんがヘナヘナと地面に座り込んだ。



「アカツキちゃん!」



 まあやさんが心配して駆け寄る。



「はは、大丈夫。ちょっと安心したら力が抜けちゃった」



 そんな二人のやりとりを見たあと、僕も脱力して長いため息を吐いた。



「ありがとな、兎太郎」


「もう魔力を全部使い果たして動けないぴょん。今日はもう戦えないぴょん……」



 そう言ってフラフラして歩く兎太郎。



「うさぴょん!」



 いつのまにか月影が来て、ヘロヘロの兎太郎を抱っこした。

 れんじも釘バットを手にしたまま戻ってくる。



「ヒロキは?」


「車で休んでるよ」


「そうか……」


 僕とれんじは巨大蜘蛛が埋もれている場所へと視線を移した。体は取り戻せなかったけど、これで幽体の呉葉さんは満足してくれただろうか?



「あれ~? おかしいな。モンスターを倒したら『クエストクリア』って出るはずなのに……」


「!!」



 アカツキちゃんの言葉で、僕たちは再度盛り上がった地面を凝視した。すると、土が動くのが微かに見えた。



「マジかよ……」


「ちっ、しぶとい女だぜ」


「嘘でしょ……」


「もうこんなの、逃げるしかないよ!」


「皆さん、車で逃げましょう!!」



 僕たちは一斉に車に向かって駆け出した。

 瞬間、背後で「ドゴォ!!」と地響きのような音がした。



「ニンゲン……ドモガァァァァ!!」



 思わず振り返ると、顔が半分グチャグチャになった呉葉さんが八本の脚を使ってこっちに向かってきていた。



「ひいぃぃぃぃぃ!!」



 もはやゾンビだ。

 頭を撃ち抜かないと死なないのでは!?



「れんじ! 銃は使えないのか!?」


「使えてたら今頃撃ってる!」



 兎太郎はもう魔法使えないって言ってたし、みんなも体力の限界がきてる。あとは火魔法を使えるまあやさんに頼るしか……。

 そう考えてると、ヒロキさんの車がこっちに走ってくるのが見えた。



「ヒロキさん、ナイス!」



 僕たちの危険を察知して迎えにきてくれるなんて、さすがヒロキさん!

 ヒロキさんの体が心配だが、ひとまず車で逃げて対策をまた考えよう。



「!?」



 しかしヒロキさんはスピードを緩めない。

 むしろ徐々にスピードをあげて、僕たちの横を簡単に通りすぎた。



「えっ……」



 ヒロキさんが向かってる先は、巨大蜘蛛化した呉葉さんのもとだった。



「やめろ、ヒロキっ……!!」



 れんじが叫ぶ。



 ───ドオンッッ!!!



 激しい音をたてて、ヒロキさんの車は巨大蜘蛛化した呉葉さんを轢いた。そしてそのまま引きずったまま屋敷の建物へと突っ込んだ。



「ヒロキぃぃぃぃぃ───!!」



 れんじの叫びをかきけすように、ヒロキさんの車が大爆発を起こす。



「……っ!!」



 真っ赤な炎が燃え上がる。

 爆発は二、三度起こり、屋敷を火の海に変えた。



「嘘だろっ……」



 それは一瞬の出来事で、燃え上がる炎を僕たちは呆然と見つめた。

 そんな中、僕のスマホが小刻みに震える。

 画面を見ると『クエストクリア』の文字があった。



「……ヒロキはっ……ヒロキはどうなった!? ヒロキを助けねぇと!!」



 我に返ったれんじが、燃え上がる屋敷に向かって走っていこうとした。

 それを月影が止める。



「おい、離せ!! 早く助けに行かねぇと、ヒロキが……!!」



 それでも月影は頑なにれんじの腕を離さない。



「おいっ!! 聞こえねーのか!? 離せっつってんだろが!!」



 れんじが月影を殴る。

 それでも月影は黙ったまま、れんじの腕を離さなかった。



「おいっ!! このまま仲間を見殺しにする気か!?」


「わからないんですか!? ヒロキさんは!! ……ヒロキさんは、身を犠牲にして俺たちを守ってくれたんです!!」


「!!」


「よく見てください!! 現実から目を背けないでください!!」


「……っ……」



 月影は泣いていた。

 まあやさんも泣いていた。

 兎太郎は目を瞑っている。

 アカツキちゃんは放心状態になっている。



「………」



 れんじはまっすぐに、燃え上がる炎を見つめていた。その瞳に光はなかった。




 炎は地元消防団の人たちによって消された。建物はほぼ残っておらず、車の残骸が少し散らばっているだけだった。



 念のため、フレンドリストからヒロキさんにかけてみるも『戦闘不能のため出られません』とアナウンスが流れるだけだった。

 


 トシヤの時と同じだ。死んだところを見たわけじゃない。もしかして……と希望を抱きたかったが、頭の片隅ではもうこの世界にいないのだと諦めていた。



 僕たちは近くの宿で三日過ごした。

 そこは前にシモムラ付近で助けたおばちゃんが経営している宿だったらしく、色々世話になった。



「あんたたち、そんなボロボロになって、あの廃墟で何してたんだい?」



 なんと呉葉さんの屋敷は十年前から廃墟だったそうで、僕たちは人間に化けた巨大蜘蛛たちにまんまと幻覚を見せられていたのだった。寝具などはシモムラから盗んできていたらしい、シモムラの防犯カメラに写っていた。食事は……考えるのはやめておこう。



 そして肝心の『見えない壁』は、僕たちがクエストを攻略したことで消えていた。

 大事になるかと思ったが、おばちゃんに聞いても「見えない壁? それはなんだい?」と言われ、人々の記憶から抹消されているようだった。



「都合のいい世界ね。一体私たちに何をさせたいのかしら」



 まあやさんの言うとおりだ、いまだにこの世界について説明がない。

 もしかしたらクエストをクリアしたら、アプリを作った奴らからなにかしらアクションがあるのかと思ったが、クリアした報酬を貰えただけだった。



 僕はメイスを手に入れた。レベルも4から15へと一気に上がった。新しい魔法も覚えたし、これで少しは戦いが楽になりそうだ。



「では、行きましょうか。まあやさんのご両親のもとへ」



 黒のロングコートと黒のグローブを装備しながら月影が言った。なんとなく月影のイケメン度が更に増したような気がする。



「月影くんは良かったの? うさぴょんたちと一緒に行かなくて……」



 魔法の杖を持ったまあやさんが月影に聞く。



「ええ、俺は約束しましたから。ちゃんとまあやさんを家まで送るって」


「……そっか、ありがとう」



 まあやさんは力なく微笑んだ。



 あれから僕たちは、れんじとは一度も口を聞いていない。まあやさんはアカツキちゃんと少し話したみたいだけど、僕たちと「別行動する」というれんじの意志に従うようだった。



 そして僕も月影に「これからどうするか」を話した。

 まずはこのアプリを作ったやつらを探しだす。

 何のためにこの世界を作ったのか、ここは仮想世界なのか何なのか……僕たちには知る権利があるからだ。



 月影は僕たちと一緒に行動してくれるのを選んでくれた。残念ながら兎太郎はれんじたちについていったのだが……。



「きっとまた会えますよ、れんじさんたちに」



 少し寂しそうな顔をしながら、そう月影は呟いた。



「うん、そうだな。それまでに、アプリをログアウトする方法を見つけ出そうぜ!」



 月影とまあやさんは頷いた。



 僕たちは進まなければいけない、トシヤやヒロキさんの意志をムダにしないためにも──。

 必ずこの世界を攻略してみせる!





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