4. ゴブリンが現れた!
「ごめんな、アキラ。剣でもあれば、あいつだけぶっ刺してやったんだけどさ」
それもちょっとこわい。
「熱かったよね、ごめんね……」
まあやさんは申し訳なさそうにしている。もしかしたら今何かお願いごとをしたら聞いてくれるかもしれないと邪な考えがよぎった。
「じゃああとで……して」
「え?」
「いや……なんでもない」
残念ながらそんなことを言う勇気は僕にはなかった。
「はあ……このコマンドだけどさ、他のゲームとはちょっと違うから戸惑ったよ」
「そうなのよね。それを説明する前にモンスターが襲ってきたから……」
まあやさんはコマンドについて説明してくれた。魔法にはいくつか属性があって、例えば《火》は火の魔法、《水》は水の魔法を使えるらしい。
某RPGゲームでは呪文を唱えたりするけど、このゲームは違って《火》をタップしたあとはスマホ画面に魔法陣が現れるそうだ。そしてそれをモンスターに向けると、更に空間に魔法陣が浮かび上がって炎が放出される。
威力は使う者のレベルと職業によって異なるらしいから、今の僕が使える魔法は《治癒》の魔法のみ。
自分に使ってみたけど、さっきの緑色の液体よりは効果が低かった。まだ左肩がヒリヒリする。
「その程度で済んだのも、まあやがレベル1だからだな」
トシヤが言う。
僕たちは全員レベル1だった。
「これからモンスターを倒してレベル上げしていかなくちゃな」
僕がそう呟くと、まあやさんが浮かない顔をした。
「ねぇ私たち……ちゃんと元の世界に帰れると思う?」
「……」
その質問は誰も答えることができなかった。
レベル上げをしてクエストを達成すれば、元の世界に戻れると表示してあるわけでもない。ただわかっているのは、僕たちは強制的にこのアプリゲームに参加させられたということ。
「とりあえず情報集めようぜ。山降りたとこに民家があっただろ? そこでちょっと休憩させてもらおうぜ」
トシヤが提案する。こういう時、悩むより行動するタイプがいて良かったと思う。
僕とまあやさんは頷き、歩き出した。
「まあ、心配すんなって。オレがレベルあげてまあやを守るからさ。んで遊び人の男なんかやめて、オレにしなよ」
いつの間にかトシヤがまあやさんの隣に並んで、まあやさんを口説いている。
「お前なぁ……」
そう言いかけて、僕はあることに気づいた。
そういえばまあやさんの友達はどこに行ったんだろう?
「うっ!!」
突然トシヤが呻き声をあげた。
「どうした? 便意でも催したか?」
なんてジョークをかましてみるも、トシヤからの反応はない。
「トシヤくん……?」
まあやさんもキョトンとしている。
なんとなく気配を感じて後ろを振り返ると、少し離れた場所にモンスターたちがいた。
「!?」
そのモンスターはさっきの○○ハンドではなく、ゴブリンだった。
「ゴブリン……!?」
ゴブリンとはファンタジー世界に出てくる怪物のことだ。肌は緑色、大きく尖った耳とギョロっとした赤い目、鷲鼻なことからあのゴブリンにちがいないだろう。
力はそう強くないらしいけど、向こうに見えるのは少なくとも二匹……。それに何か弓矢を持っている。
「トシヤくん、しっかりして!!」
トシヤが呻いた理由がわかった。
トシヤは遠距離から矢で攻撃されたんだ、尻を……。




