2. 石毛さとみですか?
「二人とも、ふせて!」
その時、甲高い女性の声が響いた。
言われた通りしゃがむと、何かが頭上をかすったような気がした。
瞬間、視界が真っ赤に染まり、熱風が僕たちの身体を包み込んだ。
「うわっ!」
慌てて地面に突っ伏すと「ギャアアアッ」と苦しそうな叫びが炎の中から聞こえてきた。
「………」
何が起きたかわからなかった。
あの炎は、あの女性が出したのか?
一体どうやって?
呆然としていると、「あなたたち、大丈夫?」と言いながら女性が僕たちのもとに駆け寄ってきた。
「あんたは……何者だ?」
トシヤが問いかける。
「それよりもまず、傷を手当てしないと」
間近で女性の顔を見上げると、けっこう可愛いくてタイプだった。髪は背中まであって、大きな瞳とぷっくりした唇が印象的だった。
まるで女優の石毛さとみだ……。
いや、石毛さとみか!?
「すみません、石毛さとみさんですか?」
僕は思わず聞いてしまった。
「えっ……ち、違うわ! よく言われるけど……」
「なんだ、違うのか」
「そこ、がっかりしない!」
だよな、芸能人がそう都合よくこんな所にいるわけないよな。
「それよりも……どうしてあなたたちは戦わなかったの?」
石毛さとみ似の女性は、自分のスマホを操作しながら僕たちに問いかけた。
「どういうことだ?」
トシヤが苦痛な表情を浮かべながら首を傾げる。
「見たでしょ? あれはモンスターなのよ。登録したのなら、戦うか逃げるかしないと……!」
「モンスター?」
そう聞き返した後、ハッとした。
僕はスマホ画面を確認する。
「あっ!」
画面からはコマンドが消えていた。
しかも今度は僕に似たような格好のアバターがゆっくりと回転して表示されていた。
「まさか、さっきの警告って…」
トシヤも気づいたみたいで、僕たちは慌ててスマホ画面を操作した。
『LAND』という覚えのないアプリがいつの間にかインストールされていた。RPGアプリだ。しかもログアウトボタンも見当たらないため、アプリを閉じることもできない。
「そっか……知らなかったのね」
石毛さとみ似の女性は僕たちの反応を見て察したようだ。
「ちょっと染みるけど我慢してね」
いつの間にか石毛さとみ似の女性の手には小瓶が握られていた。蓋を外して、なにやら緑色の液体をトシヤの背中に振りかける。不思議なことに、トシヤの背中の傷は一瞬でふさがった。
「すげぇ……」
「ほら、あなたの背中も見せて」
僕は液体がかけやすいように、上半身裸になった。
「見よ、畑仕事で鍛えた僕の体を……!」
「……もやし……」
ボソッと呟いたようだけど、僕の地獄耳にはしっかり届いていた。
ひどいよ、石毛さとみ、ひどいよぉぉぉ!
僕たちは軽く自己紹介をした。
「俺はトシヤ。で、こいつはアキラ」
「私はまあやよ。このアプリを知ったのは二時間前。あなたたちと同じようにインストールした覚えはなくて、最初は戸惑ったわ」
「炎を出せるってことは、まあやさんは魔法使い?」
まあやさんは頷いた。
「一緒にいた友達が遊び人を選択したの。まあ、リアルでも遊び人だったんだけどね」
まあやさんはムスッとした。
友達って、男友達かな?
 




