11. 戦闘不能のため出られません
食事を終えた後、僕は月影とそらじじいから聞いた話をまあやさんに報告した。
「そっか、二人ともプレイヤーだったのね。そらじいさんがレベル99だなんて、ちょっと信じられないけど……ふあぁぁ」
まあやさんはそう言いながらあくびをする。もうさっきから何度目だろう。
「ごめん、続きは明日でもいい? なんだかすごく眠くて……」
ソファーから立ち上がると、まあやさんはフラフラしながら歩きだした。今日は色々あったし無理もないと思ってると、月影がまあやさんの肩を支えた。
「危ないですよ。部屋まで送ります」
「……ありがと」
二人の姿を見て僕はムッとした。
月影は天然なくせに、そういうところは気が利くというかなんというか……。
「はあ、いいよなイケメンは」
僕はソファーの上に寝転んだ。
誰もいなくなったリビングをまるで自分の家かのようにくつろぐ。
こうしてるといつもの現実となんら変わらない。あの出来事は本当にあったことなんだろうかと思えてくる。実はずっと夢を見ていて、起きたら自分の部屋の布団で寝ていて、いつものようにトシヤから電話がかかってきたりするんじゃないかって……。
「そうだ」
僕はふと思い立って、アプリのメインメニューを開けてみた。そこからフレンドリストをタッチする。フレンドリストにはトシヤ、まあやさん、月影、そらじじいの名前があった。
「トシヤの名前あるじゃん!」
僕は勢いよくソファーから起き上がった。
よく見れば名前の隣に電話マークがついている。それをタッチした後、「プッ、プッ、プッ…」と電話の繋ぐ音がした。しかしすぐに「只今、戦闘不能のため出られません」とメッセージが流れた。
「…………は?」
何度かけてもそれは同じだった。
戦闘不能……RPGではHPゼロ状態を示す。
つまり「死亡」したということ。
「ふざけやがってっ……!」
僕はスマホを床におもいっきり投げつけた。いっそのこと壊れてもいいと思った。このふざけた世界から解放されたいと思った。
「なんでトシヤが死ななきゃいけないんだよ!」
拳を何度もソファーに叩きつける。責める相手がいないため、どこに怒りをぶつけたらいいかわからない。
月影やそらじじいみたいにレベルが高ければ死ぬことはなかったかもしれないのに、どうして自分たちだけ律儀にレベル1からなのか。
僧侶になったのに何もできなかった自分が悔しい。
「……大丈夫ですか? スマホ落ちてましたよ」
「!」
いつのまにか月影が背後に立っていた。
僕は俯きながらソファーに座り直し、月影からスマホを受け取った。スマホは少し角にキズがついた程度で壊れてはおらず、アプリは正常に起動していた。
「あれから俺も調べてみたんですが、やはりログアウトはできませんでした」
月影は僕の隣に座ってスマホとにらめっこを始める。ゲームしたことないくせに、月影なりになんとか解決方法を探してくれていた。
僕はフレンドリストから電話ができることを月影に教えた。そしてトシヤのことも。
「そうですか……。俺がもう少し早くアキラさんたちを見つけることができれば良かったんですが……」
「いや、月影が僕とまあやさんを見つけたのは奇跡に近いと思う。それにトシヤは毒に犯されていた。だからどっちにしろ、助からなかった」
「アキラさん……」
「明日、トシヤがどうなったのか確認しにいきたい。トシヤの名前がフレンドリストにあるってことは、もしかしたら蘇生させることができるかもしれない……」
「蘇生させる方法があるんですか?」
「ああ、RPGにはたいてい蘇生アイテムと蘇生呪文がある。あと教会で生き返らせることもできる」
「それは無敵ですね!」
ただし、この世界のルールと僕たちの知っているRPGのルールが同じだったらの話だけど……。




