10. 松茸フルコース
「………は!? はあぁあっ!?」
僕はそらじじいを二度見した。
「お……お師匠様、すごいです!」
月影は目をキラキラさせている。
「いや、ちょっ……おかしいだろ!!」
僕はそらじじいのパンツしか履いてない姿を上から下までじっくり見た。
「じいさん、スマホ持ってないよな?」
「持っとらん」
やっぱり。レベル99なんて、そらじじいの適当な戯れ言に決まってる。
僕はやれやれと紅茶を口に含んだ。
「でもステータス画面ならここで見れるぞい」
そらじじいはなにやらこめかみ辺りをタッチした。そして空中で指を動かす。
一体何をやってるんだと呆れて見ていると、突然空間にそらじじいそっくりのアバター映像が写し出されたので、僕は口に含んでいた紅茶を吹き飛ばした。
「な、なんだこれは!!」
「アキラさん、顔にかかったんですが……」
アバターは立体映像になっていて、僕のスマホアプリと同じようにゆっくりと回転している。最悪なことに服は着ておらず、股間部分にはモザイクがかかっていた。
「意味わかんねぇ……」
僕はアプリのメインメニュー画面を開いた。RPGには必ずプレイヤーの情報を見れるコマンドがある。HPやMPなどの状態が見れるステータス、所持しているアイテム、装備中の武器と防具、攻略中のクエスト、マップ、フレンドリスト、設定。
設定のコマンドを開いてみるけど、やはりログアウトボタンは見当たらなかった。
「アキラさん、もしかして俺たちもお師匠様のようにできるんですかね?」
「………」
僕と月影は試しにこめかみ辺りを指でタッチしてみた。しかし、何も起こらない。
「……できませんね。お師匠様はそのやり方をいつどこで知ったのですか?」
月影がそらじじいに訊ねたその時、ちょうどまあやさんがスッキリした顔で風呂場から出てきた。
「あ~気持ち良かった! やっぱり檜風呂はいいわね、おかげで疲れがとれたわ」
まあやさんが機嫌よくソファーに座ると、シャンプーの香りがフワッと漂ってきて、眉間にシワを寄せていた僕は少し癒された。
「アキラくんも入ってこれば?」
まあやさんがクルリとこっちに振り返る。
「……」
何だかとてつもなく違和感を感じた。
まあやさんってこんな顔してたっけ?
眉毛は薄く、目も小さい。あんなにぷっくりしてた唇もシワシワになっていて、全体的に老けたような……。
月影も同じ事を思ったようで、「あなたは本当にまあやさんですか?」と聞いていた。
まあやさんにキレられる月影。
さっきから思ってたけど、ありゃ天然だよな。
「松茸料理ができたぞい。話はあとにして、みんなで夕飯を食べるとするかの」
今度は松茸の香りに誘われて、僕のお腹が盛大に鳴った。とりあえず難しい話はあとにしよう。
テーブルにはそらじじいが作ったとは思えない松茸フルコース料理が並べられていた。松茸どんだけあるんだよってくらい皿に松茸があって、僕は人生初の松茸まるごと一本焼きを食べた。
「うまい! こりゃ贅沢すぎる!」
「も~アキラくんったら、もうちょっと味わって食べなさいよね」
とか言いつつ、まあやさんも一番大きい松茸を夢中で頬張っていた。なんだかアレをくわえてるようでエロかった。
「お師匠様、こんなに沢山どこで採れたんですか?」
「ふぉっふぉ、山の上の方に行ったら大量にあったんじゃよ。……おお、そういえばその時に、『暇潰しにゲームをしないか』と若い男から声をかけられての」
「!?」
そらじじいからの意外な発言に、僕もまあやさんも箸が止まった。
「若い男?」
「なかなかのイケメンだったぞい。スーツ着てるのに、松茸取るのを手伝ってくれての」
「イケメン……それはぜひ会ってみたいわね」
イケメンならここにもいるだろ、目の前に。
「暇潰しにゲームをしないかって、あのアプリゲームのことだよな?」
てかなんでスーツ着てるやつがそんなとこにいるんだよ。めちゃくちゃ怪しすぎるだろ!
「わしも暇じゃったからの、即答したんじゃ。そしたら気がつくとわしだけログハウスの前にいての」
「はあ?」
「その男に何をされたか記憶がないんじゃ。でも遊び方はこのとおり覚えとる」
そう言ってそらじじいはまたこめかみ辺りを触り、あのモザイクあり全裸立体映像を空中に出した。
「!!」
絶句するまあやさん。
「な、なんなのこれ……」
「わしの分身じゃ」
ニコリと笑うそらじじいに、まあやさんの鉄拳が飛んだ。
 




