1. ここはどこ?
──ドスンッ!
鈍い音と共に、僕のお尻が地面に落下した。
「いってぇ!」
ちょうど落ちた場所に堅い物があったため、痛みはそれが突き刺さったところに集中する。
「はあ? なんでこんなところに消しゴムが……」
消しゴムだろうと予測してそれを掴むが、消しゴムにしては硬くゴツゴツしていた。
「は? 石?」
それは左手に収まるくらいの小石だった。しかも左手からは微かに土の匂いがした。
「なんで床にこんなもの……」
僕は違和感に気がついた。
「──なっ!?」
今、自分がいる場所。
そこは自分の部屋ではなく、草木の生い茂った森の中だった。
「───」
しばらく呆然と立ち尽くした後、自分が今まで何をしていたのか思い出そうとした。
「………」
が、記憶がない。
あるとすれば自分は寝相が悪く、よくベッドから落ちるってこと。
「これは、夢?」
右頬をつねってみるが、普通に痛い。
僕はとりあえず、ズボンについた土を払って立ち上がってみた。お尻はまだズキズキ痛む。そして靴で地面を蹴ったり木を触ったり、空気を吸ったり吐いたり大声を出してみた。
「夢にしては、リアル感がある……」
まるで現実そのものだ。
もしかして誰かに頭を殴られて、誘拐されて山に置き去りにされたとか?
「怖すぎる……」
怖い妄想が頭の中を駆け巡り、僕は身震いをした。
ザアッと木の葉の揺れる音が耳に入る。なんだか急に辺りが暗くなってきたような気がして、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「とりあえず、ここから出よう」
わざと声を発して恐怖を紛らわせる。しかしすぐそばの茂みが急に揺れ始めたため、心臓が止まりそうになった。
「な、なんだよっ……僕なんか誘拐しても、お金ないから無駄だぞ! こ、今月の家賃と携帯代だって、まだ未払いなんだからな!」
動揺しすぎて勝手に口が動いてしまう。
「はあ?」
「ひっ……!」
「何言ってんの、お前。どっか頭打った?」
聞いたことのある声にハッとした。
「と……トシヤ!?」
茂みの中から現れたのは、なんと親友のトシヤだった。
「ったく、なにやってんだよ。急にいなくなるから心配しただろ」
トシヤの言葉に僕は目を丸くした。
「え……僕ら一緒にいたの?」
「はあ? 今日は紅葉見に行こうぜって、さっき展望台に登ってったじゃん。そしたらお前、急にいなくなってさぁ」
「……覚えてない」
「マジで? やっぱどっかで頭打ったか? それかくねくねの祟りか……」
「くねくね? ラーメンならこないだ食べに行ったけど」
「そのくねくねじゃねーよ。地方ネタ話すんじゃねーよ。白くてクネクネ動くヤバい生き物だよ。オレ見ちゃったんだよな、さっき」
するとトシヤの背後で、何かモゾモゾ動いてる物体がいることに気づいた。
「トシヤ、それって……」
言いかけた時、上着のポケットに入れていた僕のスマホが突然ブルブルと震えだした。
《ブー! ブー!》
《モンスターが接近中!》
《モンスターが接近中!》
けたたましく警告音が鳴ったあと、スマホから音声が流れた。
「はっ? 地震……じゃなくて、もんすたぁぁ!?」
その警告音と音声が二重になって聞こえてくる。僕のスマホだけじゃなく、トシヤのスマホからもだった。
訳がわからずスマホ画面を見ると、なぜか《攻撃する》《逃げる》のコマンドが表示されていた。
「は? なんだよこれ……」
二人してスマホを眺めてると、画面が赤く点滅した。同時に鋭い痛みが背中に走った。
「痛っ……!」
それはまるで獣の爪で引っかかれたような痛みだった。トシヤの背中を見ると、背中の服がカッターで切り裂いたかのように破れていて血が滲んでいた。
僕の背中もヒリヒリして熱い。きっと何者かにやられたんだろう。
「アキラ、気を付けろ! 何かいる!」
僕は背中の痛みを我慢しながら、辺りを慎重に見回した。
「何かって……」
僕たちの背中を切り裂くほどの攻撃性の高い動物といえば、クマとか? でも360度見回しても、クマの姿は見当たらない。
「クマ……か?」
「クマじゃない! もっと別の何か……」
その時、
《ブー!ブー!》
《モンスターが接近中!》
《モンスターが接近中!》
またスマホから警告音と音声が流れた。
「一体なんなんだよ、これは!」
イラッとして電源ボタンを押すも、コマンド画面は消えない。警告音と音声も止まらない。
「まさか……」
 




