ドラマ「PICU」を巡る雑感
フジテレビと美瑛町が揉めたらしい。小児(主に15歳以下)の救急医療を扱うドラマ「PICU」でのこと。私は未見。気がついたら1話終わっていて、「リアタイしなくても後でまとめて観れば良いかな」と思っていた。
発端となる第1話で地名がネガティブに出ちゃったので「美瑛の医療環境が良くない」と風評被害が出かねない、とのこと。先日、手打ちになったそうだが、ドラマ自体の評判は良いらしいので残念である。残念さはフジテレビ9、視聴者1、くらいで。
まず視聴者。Twitterなどを見ていると、「北海道の医療はどこもそんなもん」「変にドラマを変えないでほしい」という擁護論が散見された。いや、医療環境については同意する部分もあるが、「自分の楽しみ優先、人の苦しみは知ったこっちゃない」と言う態度はダメだと思う。これはドラマ制作サイドにもそのまま言えるのだが。
そしてフジテレビ。手打ち後の双方のリリースを見ると、美瑛町が「フジテレビに理解を得られました、ドラマを応援していきます」に対して、フジテレビは「医療航空(輸送)を描きたかった」とズレている。あれ?主題は小児救急なのか医療航空なのか、密接に関係していると言いたいのか。大体が美瑛町の地名を使っているけどロケ地としてクレジットされているのは南富良野町、「他人の褌で相撲を取る」ような所業で美瑛町としてはカケラもメリットがなかった。個人が乗用車で搬送したりしないで救急車を呼べば良かったんじゃね?(ドクターヘリに繋げたかもしれないし)と気がついたら、なんか醒める。
ともかく未見の私だが、舞台が札幌の(架空の)「丘珠病院」というところで、「丘珠空港に絡めた話なのかなあ」とは予想がついた。
丘珠空港、陸上自衛隊管轄の丘珠飛行場は、以前から滑走路延長問題や存続問題が繰り返し語られている飛行場である。(昨年、熊が出没したとはいえ)周りは住宅地化されており、かつ滑走路が短いのでジェット機の発着が困難なので、定期航空路の存続が度々話題になる。存続派、滑走路延長派、ジェット化派の主張の拠り所は、「北海道の高度医療・専門医療は札幌に偏在しているので、丘珠空港は必要」とのほぼ一点に尽きる。2010年ころには丘珠空港をハブとした医療航空の実証研究が行われた(コスト面の手当てが出来なくて止まったようだ)。
北海道の小児救急と医療航空はどうなっているのか。
PICUは札幌に1か所存在する。札幌市手稲区の北海道立こども総合医療・療育センター(コドモックル)である。丘珠空港からは車で1時間以上かかってしまうが、ヘリポートを持っている。元々は小樽市銭函地区にあった小児専門病院の小児総合保健センターと現在地にあった札幌肢体不自由児療育センターを統合し、医療〜リハビリテーション〜療育を一貫して行える施設である。隣接地に札幌手稲養護学校を併設、ドナルド・マクドナルドハウス(ご家族の宿泊施設)が設置されている。また道内には、NICU・GCU機能を持つ医療施設も複数あり、ドラマの状況なら美瑛町から救急車で40分の旭川厚生病院に搬入されると思われる。
医療航空はドクターヘリが4機(手稲渓仁会病院=札幌市手稲区、旭川赤十字病院及び旭川医大=旭川市、釧路市立病院及び釧路孝仁会病院=釧路市、市立函館病院=函館市)稼働している。日高山脈一帯や宗谷北部は稼働エリア外となり、また夜間帯は飛べないため、北海道警察や自衛隊のヘリに協力を求めることも多い(吹雪いたらそのヘリも飛べない)。
北海道における小児救急+医療航空の実例としては、東西冷戦末期の1990年にサハリンで大火傷を負った3歳の子供(コンスタンチンくん、コースチャ)を、海上保安庁の航空機(ユジノサハリンスク〜丘珠)と道警のヘリで札幌医大に搬送した(2000年にプロジェクトXで放映されている)。ドラマ最終話付近でこのネタ使うのかな?と思っていたら第2話で火傷の話が出ていたので、多分別の話になるのだろう。
ドラマと現実の違いはもう一つ。大学病院が多い東京ならともかく、北海道には(知事に頼まれたくらいで)PICUを設置できるような民間病院は無い。頑張っても手稲渓仁会病院か天使病院か北海道勤医協か徳洲会、あたりまでか。経営的に厳しい。
もしドラマの舞台が沖縄だったら、医療航空の比重がもっと大きくなったのかもしれない。陸上自衛隊第15旅団第15ヘリコプター隊は、沖縄と鹿児島の離島からの救急患者輸送を24時間体制で担い、出動は年間250回を超える世界有数のエアレスキューだから。