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生徒会

魔術科の授業は、主に魔術理論の座学と実技。それと薬草学と倫理学が少し。あと、社交ダンスもある。

倫理学の内容は貴族階級や貴族社会を学ぶものらしい。

倫理学と社交ダンスは平民に必要ないのでは?と、思うのだが、魔術科を卒業し、魔導師認定をされれば貴族のお抱えになることもあるだろうと見越して勉強しておく。というのが学園の方針だ。


今年からの魔術科だから、学園も試行錯誤なんだろうなぁ、と、リリアは思いながら、今は魔術理論の座学中だ。


先生が黒板に初歩の魔法陣を描いて、それを生徒が真似をして自分のノートに描き写している。


円の意味などを色々と説明してくれているが、残念ながらリリアは半分も理解していなかった。


おでこを扉にぶつけられてから一週間。リリアは大人しく授業に専念していた。

だが、急に賢くなれるわけでもない。それなのに、平民の成績が良かったら、それはそれで貴族からは良く思われないのではなかろうかと、リリアはする必要がないであろう心配をしていた。



そうだ!会いに行くのが駄目なら手紙を出せば良いんだわ!

シェリアだって、これから交友関係が出来てくればもしかしたら伝手があるかもしれない!



シェリアに迷惑を掛けてはいけないと思いつつ、迷惑を掛ける気満々な自己中思考をしたところで、授業終了のチャイムが鳴った。


「では、次の実技の授業は、この魔法陣を使いますので、間違えずに写しておいて下さいね」


心ここにあらずで聞いていたリリアは、先生の声で慌てて黒板と自分のノートを確認する。


「……実技か」


知らず呟いていた声をジュリが拾っていた。


「あら、自信がなさそうですわね」


「うん。苦手なの」


リリアは憂鬱になっていた。自分はやっても出来ない事を分かっているのだから、憂鬱になるのも当然なのだが、それを知らないジュリは何かしら励ましてくれている。

上の空でジュリとお喋りしていると、授業開始のチャイムが鳴った。



「では、皆さん。さっき描き写した魔法陣を出して下さい」


先生の声で、ぱらぱらとノートを広げる生徒たち。

リリアも仕方なく机の上にノートを広げた。


「では、魔法陣に手を置いて、陣が赤く光るまでゆっくりと魔力を流して下さい。光ったらそれを持続させます。それ以上は魔力を流しては駄目ですよ」


この魔法陣は魔法を使う時の魔力量を調整する訓練用の魔法陣で、流した魔力量が多いと自分の属性の力が出てしまう。

最初にコントロールを覚えておかないと、魔法を使った時に魔力が制御出来ず暴走してしまう危険性があるのでしばらくはこの訓練をする。

平民が持つ魔力量であれば、暴走したところで大した事はなかったりするのだが、それでもそれが原因で火事が起こることもあったりするので、コントロールは覚えておかないといけない。


「カルムくん!抑えて!流し過ぎです!」


「えっ!どうやって?!これ、どうやって抑えるの?!」


先生の慌てた声にカルムの方を見ると、カルムが手を置いている魔法陣を中心に風が巻き起こり、周りに迷惑を掛けていた。

カルム自身、どう抑えれば良いのか分からず、最終的に魔法陣から手を離すことで落ち着いた。



なるほど。魔力を流しすぎるとそうなるのね。そして、カルムの属性は風だということが分かったわ。

うーん。でも、私には出来ないのよね。



ちらっと他の生徒を盗み見ると、みんな手を置いた魔法陣が赤く光っているのが見えた。見なきゃ良かったとリリアは少し後悔する。


実はリリアはこの訓練をしたことがある。シェリアは屋敷に呼んだ家庭教師から魔術の授業も受けていたのだ。その際にリリアも同様の授業を受けさせてもらっていた。


だが結果は言うまでもない。


結果は分かっているのだが、みんな出来てるのに私だけ出来なかったら恥ずかしい。

リリアは恐る恐る魔法陣に手を置いた。



何も起こらない。



魔力を流すというのがどういう事か分からないが、リリアは自分なりに流してみた。暫くやってみたが、魔法陣には何の変化も訪れない。



やっぱり私……駄目なんだわ。



肩を落としたリリアをよそに、周りは魔力を流してから十分その状態を維持し、少し休んでまた流す。というインターバルトレーニングに移っていた。


先生は気を落としたリリアに気が付いていたが、何も言わず、トレーニングを四セットしたところで手をぱんぱんと叩いた。


「はい。そこまで!次の実技の時間は外に出て、今より少し流す量を増やしますからね」


生徒たちの「はぁーい」と、いう声と同時にチャイムが鳴った。休憩時間に入った生徒たちが、がやがやと騒ぎ始める中、先生がリリアを呼ぶ。


何も出来なかった事を怒られるのかと、びくびくしていると、リリアの母親くらいの年齢だろうと思われる恰幅の良いマレリア先生は、その目尻にしわを作って目を細めた。


「リリアさん。まだ始まったばかりです。人によって、理解するタイミングは違います。あなたには間違いなく魔力はあるのですから焦らずゆっくりいきましょう。いいですか?絶対に無理をしてはいけませんよ?」


最後は念を押すように言われたが、先生の優しい声に、気休めだとは分かっているがリリアは救われた気がした。



――――間違いなく魔力はある。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そして―――――その日の放課後。リリアは有り得ない事態にガクブルしていた。


「何で?どうして?」


リリアは貴族校舎には二度と行くまいと思っていたのだ。それなのに、あちらから来るとは夢にも思っていなかった。


放課後、帰ろうとしていたリリアの前に現れたのは、なんとクリスフォード公爵令息、キリヤ様。


思いっきり固まるリリアを、特に説明することなくキリヤは教室から連れ去り、有無を言わさず生徒会室のソファに座らせていた。


キリヤは貴族の微笑みを浮かべるだけで何も言わない。なぜ自分がここにいるのか理由を聞きたいが、自分から声を掛けてはいけないと言われていたリリアは、黙って震えていた。


更にリリアはここが密室であるということに気付いてしまった。



確か、貴族ってそういうの駄目なんじゃなかったっけ??



幼馴染みのシェリアもご令嬢である。何度か婚約者候補と呼ばれる男性が屋敷に訪れていたのを見たことがあったが、二人きりというのはあまりなかったし、なったとしても部屋のドアは開けていた気がする。


シェリアの話ではキリヤはエリザベスの婚約者だということだ。と、いうことは、今、この状況を誰かに見られたら、「婚約者のいる男性と!」と、またおかしな噂の種になってしまうのでは?

そんな噂が広まって、今度は婚約者から嫌がらせでも受けたらたまったものではない。


キリヤはそんなリリアの心中などお構いなし。といった雰囲気で、いくつかある机の一つに座り頬杖をついていたが、不意にリリアに視線を向けた。


「リリアは何で入学したの?」


「へぁっ?」


唐突に始まったキリヤの質問に、声が裏返る。なぜ自分の名前を知っているのかなんて疑問は浮かばない。


「えっと……魔力の、コントロールが、出来るように……なるため?」


「ふーん……何で疑問形なの」


ふっと、キリヤが笑った事で、少し緊張が解けたが、リリアが、ここにいる理由は話してくれない。


「まぁ、いいや。そろそろ来ると思うから、もう少し待ってくれる?」


さっきの質問の意図は何だったのかとは、当然ながら問う事は出来ず、更に何が来るのかも問えず待つこと五分。生徒会室の扉がノックされた。


「どうぞ」


キリヤの声で入って来たのは、エリザベスだった。彼女は部屋に入るとリリアを見て目を見開いたが、すぐにキリヤに視線を向け見つめていた。いや、軽く睨んでいた。



え、何これ。どういうことなの?

一先ず、修羅場……では、ない。よね?ね?



リリアが内心はらはらとしながら二人を交互に見ていると、キリヤが口を開く。


「そんなに私を見つめていないでエリザベスも座って?」


じっとりとした視線をキリヤに向けたまま、エリザベスは彼の隣の机に浅く腰を掛けた。


「キリヤ様。ご説明を求めますわ」


「いや、まだ役者が揃ってないんだけど……まぁ、いいか。リリアを生徒会に入れることにした」



さらっと言われて言葉を流しそうになったけど、私の名前が聞こえた気がする。

生徒会に入れる。とか、言った??

いや、まさかね。聞き間違いに違いない。



全力で現実を逃避したいリリアの耳に、エリザベスの声が届いてしまう。


「リリアさんを……生徒会に?」


「そう」



ぇえええーっ!!!間違えじゃなかった!!



リリア同様、驚くエリザベスに当たり前かのように答えるキリヤ。リリアは是非その理由の説明を求めたいところだった。


「キリヤ様。リリアさんの同意は得られてますの?」


エリザベスのナイスな質問に、リリアはキリヤを見た。


「え?良いよね?」


きょとんとした顔でリリアを振り返るキリヤに、リリアは首をぶんぶんと思いっきり横に振って答えた。


「ほら、良いって」



ぇえええーっ??!!



「キリヤ様……リリアさんが怯えてますわ」


「え、何で?魔術科ってそんなに忙しくないだろ?」


「そういう問題ではありませんわ」


エリザベスが呆れている。リリアも同意するように、今度は首を縦に振った。


「キリヤ様、先日の一件でリリアさんはあまり宜しくない状況にありますわ。生徒会に入れるなど、何故わざわざ悪化するようなことをするのです?」


「私がそれを必要だと思ったからだよ」


やはり自分は変な噂の的なんだ。と、青くなったが、エリザベスはリリアを擁護しようとしてくれているようだ。しかしキリヤ相手ではけんもほろろといった感じで返される。


そこに、再びノックの音が響いた。「失礼します」と、いう声と共に入って来た人物に、リリアは条件反射的に飛び上がって、そのまま立ち上がって完全に固まってしまった。


「マリウス。遅かったじゃないか」


「職員室に呼ばれていたものですから。それにクリスフォード様。私は生徒会に入るとは一言も言っておりません」


マリウスはそう言ってから、初めてリリアに気付いたようで、訝しげな視線を送ってくる。


マリウスに会えた嬉しさはあったが、その彼の視線があまり友好的でないことに少し悲しくなってしまった。


「マリウス。君と私の間柄で他人行儀じゃないか。前みたいにキリヤと呼んでくれよ」


「はぁ」


明らかに気のない返事をするマリウス。これまでの流れから、マリウスの意思は尊重されず、否応なしに生徒会に入れられる事は決定なのだろう。


「あと二人くらいは欲しいが、暫くはこの四人で生徒会を運営していこう」


「はぁあっ?!」


マリウスの視線はリリアに向けられている。自分が生徒会に入りたくないという以前に、「何でこいつが?」と、思っているのだろう。



その気持ちはよく分かります。自分が一番よく分かっていますから。

神様に文句を言った挙げ句、他力本願でマリウス様に近付こうとしたから、罰が当たったのだわ。



リリアはマリウスの視線が辛くて、俯いたまま顔を上げられずにいた。

エリザベスは諦めたのか、何も言わずに気の毒なものを見る視線をリリアに向けていた。


この場で楽しそうにしているのは、キリヤただ一人だった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――――何が、どうして、そうなりました?」


学園寮の自室にて、シェリアが手をふるふると震わせてリリアに詰め寄る。



あ、なんか既視感。



生徒会室が貴族校舎三階にある為、リリアがキリヤに引き摺られているのを多くの生徒に見られていた。

そして、やはり、案の定、「婚約者のいる男性にすり寄る卑しい平民」と、噂が出来上がっているそうな。


どうでもいいが、噂になるの早すぎじゃない?

誰か言いふらしている人でもいるんじゃないか、と思わなくもない早さだ。


まあ、それだけ平民が同じ学園にいるのが気に入らない人がいるんだろう。じゃあ、仕方ない。と、無理矢理に納得すると、生徒会室での一件をシェリアに説明する。


「何が起きているの?!」


シェリアは両手で顔を覆うと、制服のままベッドに突っ伏した。


「いや、私も何がどうなっているのか……何で私なんだと思う??」


「知らないわよっ!!」


シェリアは、がばっとベッドから起き上がった。その様子はリリアよりもかなり混乱しているようだ。


だがすぐに冷静を取り戻した。


「……と、いうことは、もうリリアの目的は達成されたということになるわね?では、もうこれ以上おかしな事が起こる前に退学して領地に帰りましょう」


シェリアの目が据わっている。


「シェリア落ち着いて!確かにマリウス様にはお会い出来たけどっ!」


「だって、冷たい視線に嫌な思いをしたのでしょう?だったらもう帰りましょう?」


確かにマリウスがリリアに向ける視線は冷たいものだったが、だから尚更いい印象にしたいと思ってしまうのは贅沢なのだろうか。


「……私、後悔したくないの」


思わず言ってしまった台詞にシェリアの目が見開かれ、そして、瞼を伏せた。


「リリア。あなたが傷付かないというのであれば……何も言えないわ」


「ありがとう。私は大丈夫」


今日はリリアから大事な幼馴染みにハグをする。



ごめんね。シェリア。昔から私の事を凄く心配してくれてるのは知ってる。

でも、私には時間がないのよ。


もし傷付いても、それも含めて生きているという実感が出来ると言ったら、あなたはどう思うのかしら。

お読み頂き有難う御座いました。

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