想定外の人物です
レイル家の家長であるダンガー・レイルは余り気の強い大人ではなかった。むしろ妻であるレヴィア・レイルの方がずっと逞しい女性である。ダンガーは婿養子である。ゆえにあまり強い発言権を持っていなかった。レヴィアの母レイリア・レイルはレティアが14歳のころに他界していた。93歳まで生き、生涯を尽くした夫、シャドロン・レイルはその死の瞬間に立ち会っていなかった。それゆえレヴィアもレティアも祖父のことあんまり良く思っていなかった。というよりシャドロン・レイルは家にはいるはずなのにレイリア以外に顔を見せてはいなかった。なんでも地下に長く住んでいて生存の安否すらもわからないというのである。と、貴族の情報をイルルはオフィーリアに語っていた。
「確かレヴィア夫人は見たことはあるな、貴族社会でも有名な話だやり手のレイリア・レイル夫人とレヴィア・レイル夫人。この二人の努力あっての大貴族だと」
「はい、ですが一応ダンガー様とレヴィア様は恋愛結婚とのことです、なんでもレヴィア様はなかなか結婚の二文字を言えず煮え切らないダンガー様に逆アプローチをしたとかですよ?」
「それは、豪気な方だな…それに誰も知らない祖父の顔というのはちょっと気味が悪いな…シャドロン・レイル夫君とレイリア夫人の娘であるレヴィア夫人はとても〇十代にはみえなかったな。綺麗な燃える様な髪色で美女でもあるし」
「若いころのレイリア様は黒い髪だったらしいですよ?」
「ではレヴィア夫人レティア会長の髪は祖父の遺伝か…では整った顔も祖父の遺伝なのだろうか…?」
「でもレイリア様も若いころは素敵な女性だったとハウベ様からきいております。どちらにしても美男美女ではないのでしょうか?」
「ダンガー夫君は今はウィザリア魔法研究所に勤めているのだったな?今は帰省しているのか?」
「いいえ、研究所に住み込みだそうです」
「そうか…そういえば最近街の中が暗い気がするのだが気のせいか?」
馬車から見える人たちの中には独り言を言っていたりうずくまっていたりするものいた。妙に冴えない顔であった。
「私も思っているのですが詳細は掴めていません、この国に変なことが起きなければいいのですが…」
ハユードからの手紙である料理だけは食べるなとだけ書かれて気を使って不安に思っているイルル、それを知らないオフィーリアからしても違和感を感じる風景であったらしい。
「確かに…不吉だな…」
学校に居れば聞き耳でも立ててなにかしら情報を掴んでいただろうが停学中により学校でもおかしな生徒が出始めているのを知らないオフィーリア。
「レティア会長ならなにか街について知っているかもしれないな」
「そうですね。杞憂で終わればいいのですが…」
間もなくレイル邸に着いた二人はメイドの一人に連れられ本堤に招かれた。
まず挨拶をしたのは家長不在で実質家を動かしているレヴィア・レイルだった。
「いらっしゃいませ姫殿下、いつも娘がお世話になっております」
品のある薔薇柄のドレスにに燃える様な紅い長い髪を括っていて大人の魅力がたっぷり詰まっていた。
「いきなりの訪問失礼しますレヴィア夫人、今日はレティア会長との会談を目的に来させていただきました、本人は今どこに?」
「今日は休日でございますしレティアで十分でございますわ。あの子ならなにやら学校の問題を家にまで持ってきて処理してることでしょう、まったくあの子ったら時間が来たっていうのに融通が利かないんだから…あらイルルちゃんじゃない!元気にしてる?」
「ご機嫌うるわしゅうございますレヴィア様、オフィーリア様の初訪問をお許しいただきありがとうございます」
「いいわよお許しだなんて、あなた方は王家の人間なのだからもっと堂々としてなくては足元をすくわれるわよ?なんてこんな年増のおばさん相手に言われてもしっくりこないわよね」
「いえいえ、本当にまだ20代のような美しさでその秘訣を教えていただきたいぐらいですレヴィア様」
「特に何もしておりませんわ。強いて言うなら夫と娘への愛を常日頃から想っているぐらいですわ」
その瞳には偽りはなかった。まっすぐでなんでも見通してしまいそうな黒い瞳で語る。
「それよりもニーナ、無理やりでもいいからレティアを連れてきて頂戴!私たちはもう応接室にいると言っておいて」
ニーナと呼ばれたメイドは、かしこまりました、と言いレティアの元へ行った。
二人はレヴィアに導かれるまま応接室へと着いていった。
オフィーリアとレヴィアは相対してソファにすわりイルルは笑顔で傍に立っていた。先にオフィーリアに紅茶を入れる他のメイドの所作をイルルは確認しながら黙視していた。紅茶がカップに注がれたあとにレティアが現れた。
「遅くなって申し訳ありません殿下、お母さま」
オフィーリアは改めて挨拶する。
「初の訪問、学業で多忙の中失礼しておりますレティア会長」
「いえ、殿下、今は普通にレティアでいいのですよ?」
レヴィアは言うが。
「学校では本当にお世話になっているのはわたくしのほうなので…わたくしのなかではやはり会長というほうが楽なので…ダメですか?レヴィア夫人?」
「殿下が言うのでしたらしょうがありませんわ。二人とも話し合いがあるみたいだしわたくしはここまでで失礼しますわ殿下、レティア、粗相のないように」
「はい、お母さま」
去っていくレヴィアの後にソファに座るレティアだった。その姿はやはり親子なのか大人の魅力あふれる黒のワンピースを着ていた。
「申し訳ありません殿下、用事というのは「会長!」」
「なんですか殿下?」
レティアはなんとなく察しているがちょっと困らせてしまっていた。
「オフィーリアでいいです。いつもお世話になっているのは私のほうなんですから…」
ふふっと笑いレティアもくだけた笑顔で話し出す。
「ごめんねオフィーリアさん。一応上下関係ははっきりしてた方がいいと思ったんだけど。私もなんだかつかれちゃったわ、私はお母さまみたいに王族に対して貴族らしくなかなかできない性分みたいだ」
いつものレティアにほっとするオフィーリアである。
「で、大体のことはわかるよ、彼の写真についてでしょ?」
「そうなんですが、会長はすでに写真のことに気づいているんじゃないですか?」
「ふむ。やはりバレてしまったか、ごめんねオフィーリアさん。別に騙すきはなかったの…私もちょっと情報を集める時間が欲しかったの」
「情報…?ですか?」
「ヴィリオパルグランツの友達であるシレル・ユータスっていう高等部2年生の生徒に話を少しだけだけど情報を提供をしてもらったわ、一年前の話だけどね、クレナ先輩はもともと風属性と雷属性が魔力回路に相性が良かったの、でも決定打といえるオリジナル魔法はそこまで多くなかったのが私が一年の時で彼女が2年の時、そしてオリジナル魔法をいくつも編み出したのがヴィリオ・パルグランツが高等部1年で私が2年、そして彼女が3年の時。なんでもヴィリオ君はオリジナル魔法を作るのが得意らしいけど失敗を良くするって、シレル君は言っていたわ、で、こうも聞いたわ、『あいつの魔法いつも失敗なんですよね、でも小さいオリジナルの魔法はちょっとはつかえるんですよね、で、いつも実技の試験は赤点ギリギリでめんどくせーって愚痴てましたわ』ってね、私はこう考えるの…彼は魔力が少なく大きな魔法を使おうとすると失敗をしてしまう。逆にいえば膨大な魔力をもつ人ならばそれが可能になるのでは、そして彼は黒の矢の影の一員でありそれをクレナ先輩に見つかりオリジナル魔法を提供、そしてギルド活動は黙秘という交渉していた…まぁ仮説なんだけどね」
オフィーリアはその仮説を聞いて思い出していた。実は彼女の席はヴィリオの斜め後ろで彼がクレナのこと腹黒いといっていたこと、そしてマル秘ノート30のことを。レティアの仮説がちょっとずづ現実味を帯びてくる感覚がした。
「レティア会長…私は停学の当日にヴィリオ・パルグランツと少し話をしました。その時に彼は言っていたんです。自分は生まれてきたときに膨大な魔力をもって生まれたために魔力回路が普通に働かないと、しかもオリジナル魔法を作ったと思わしいノートも見ました。それにまだあります!その成功例を作ったのは教師であるゼイン先生ということも彼の口からききました」
「ゼイン先生も…いやゼイン先生はこの際抜きにしてもいい、オリジナル魔法のノートか…それに魔力回路の不都合…彼は黒の矢の一人で間違いないね…その証拠にクレナ先輩が黒の矢に入ったのだから。もっと彼からオリジナル魔法のヒントをもらう約束をしたんじゃないんだろうか…」
「かなり濃厚な線ですね…」
二人の考えはほとんど一致していた。
(まぁ影っていうか当時は堂々としてたんですけどね…結構核心に迫ってきてしまいましたが…ゼルツを抜きにしたのはもうちょっと考えるべきでしたね)
レイル家の周辺で変装して散歩しながら聞いていたヴィリオであった。ゼインもといゼルツ・シュナイダーあってのノートでもあったからである。彼は冥の属性と相性がいいと同時に他の属性の最大魔法を一通りやってのけるからヴィリオは彼に見つかった際に黙秘とノートの魔法を実現させることとギルド設立に協力したからである。ゼルツにとっては剣の腕が達人クラスの良い剣士をギルドに引き込めたことはかなりのプラスであり不満はなかったらしい。
「話を少し変えるのですが最近街の様子がおかしいのですが…何か学校にも動きがあるのですか?」
レティアは長考していたが話題変えられ今追っている事件のことをオフィーリアに話し出した。
「そうか、そういえばまだ停学中だったわね、私も不審な動きを見て回ったのよ、それで具合の悪くなった生徒全員に聞いて回ったんだけど…(ヴィリオ…いまいいか?)」
今直面している街の危機の話を盗聴していたのにいきなり念話されてびっくりしたヴィリオであった。
(いまちょっといい情報が…)
(アーラさんから聞いてきたぜ。今巷で流行ってる恋人を引き寄せるってうたい文句で王都で流行った焼き菓子にはある毒物がはいってたらしい、ウェイトレスの亜人の子がそれを食べようとしたとき主人が見つけて調査したところキールグの葉が通常処方される0.5倍で使用されてるって話だ)
聞きたい情報が聞けたことで対策を練らねばならないと思いアーラさんのところでの情報なら間違いないと思い頭をゼルツに切り替えようとした瞬間だった。
「さっきからここで何を盗聴しているんだ?若いの?」
いきなり現れたのは老人の姿をしていたがヴィリオには見えていた。その老人には無数の糸が引っ張られ人形、というよりよくみなければわからないほどの老人の傀儡であることが。そして老人に変装しているヴィリオを若いと判断したその妙な目利き。ヴィリオが隙をつかれるように話しかけられたこと。盗聴をしていること。口に仕込まれているクリスタルの魔具。
(怪しい…のはお互い様ですけどなんですか?…この圧力は……?)
「怪しいのはお互い様とでもかんがえてるようだな?若いの?」
「どうしましたかなご老人私はなにもしていませんが?」
「いや無理があるだろう耳に闘気こめて孫たちの会話をきいていたのだからなぁ、久々に若く力あるものが我が家を盗聴していたのでな。久々に興味がわいて話しかけてしまったというのが本音だ」
「孫?…何を?…」
わけのわからないまま現れたのは老人の人形だけではなく後ろから甲冑の剣を持った傀儡が現れた。甲冑はいきなり剣で胸を貫こうとしていた。
避けるが人形なのに嫌にスピードが速い。
(ゼルツ…!ちょっとやばいかもしれませんので一旦止めます!)
「すまないな。話の途中だったのに。だが盗聴はあまり関心しないぞ?」
「どうやらお互い本当の姿はわからないようですね」
「姿…か、まぁ君が17歳程度なのはわかるがな」
「…!」
「いくら老人ににせた歩き方、腕のふり幅でも私の目には完全に十代の後半なのは間違いない、ついでに君は孫や客人と同じ学院の生徒、となれば17か18あたりではないか?」
(こういう相手には…敵意がないということをみせないと…)
ヴィリオは顔からモノクルを一端はずし老人の顔の皮を一枚はがし括っていた髪をほどきまたモノクルを付け服装は紳士服になり完全に姿をさらしたのだった。
ヴィリオの変身魔具であるモノクルは5分間は外した後持続する性能を持っている。なので髪の色と眼の色は違えどほぼ素顔そのものである。
「僕はあなた方に危害を加えるつもりはありません。去れと言うのなら「気に入った」…はぁ?」
人形たちが蔭へと消えていき新しい人物が蔭から陽の元にさらされる。白いシャツに髪は赤く20代前半くらいであり片手にはロッドを持っていた。
「これでお互いが本当に近い姿をさらしたわけだ。我が名はシャドロン・レイル。この家の持ち主だ君も名乗りたまえ」
「ヴィリオ・…パルグランツと申します…」
「ほう…パルグランツか…久々に聞いた名だ…ではあの時の…面白い少し私と遊んでみないか?ヴィリオ少年?拒否権は無いと言っておこう」
「パルグランツを知っているんですか?」
「知ってるも何もあいつとは何回か殺しあった中なのでな、いやでも覚えている」
「義母さんと戦った?!」
(そんな…義母さんと殺しあって生きてる?そんなの嘘だといいたいですが…この圧力…義母さんに近い…)
「ゆっくり行くから良く見ておくんだな」
その刹那の瞬間にシャドロンは頭一つ分の距離しか残さず無音でヴィリオの前に立った。と思った瞬間ヴィリオは青闘気の纏を展開し木の上に逃げるのであった。二人ともが同じくらいの早さである。
ヴィリオは瞬間的に義母の修行で動けたとはいえ相手は闘気を瞬間的に出しており何色かもわからなかった。ただ頭は危険信号でいっぱいだった。
「本当に遊ぶんですね。ですが遊ぶというのは同格同士で初めて成り立つものですよ?シャドロンさん…あなたは僕より強すぎるのでは?」
こんな状態では本気で逃げたところですぐに捕まると頭は冷静に判断し相手を自分の土俵に立たせ満足してもらうしかないと考えたのだった。
「ふむ…それもそうだなでは君のやや上のあたりで遊ぶとしよう」
するとシャドロンは紫の闘気を放出させたのだった。
(この狸め…遊ぶというより一方的な暴力が趣味のようですね…)
「そうだなぁ…これを譲歩というんだ。覚えておくと良い。あと暴力という言い方は好かんなあくまでこれは遊びなのだから」
「勝手に人の心を読むな!」
青闘気の纏を使いフルスピードで残像を何体も作り虚を作る。
「やはりこうしていると昔のことを思い出してしまう…なんとも懐かしい光景よ…」
ただ立っているシャドロンに対しヴィリオは右腕を折ると決意し関節を壊しにかかろうと後ろに回り腕を掴もうとした瞬間、シャドロンが今度はヴィリオの真似をして残像を作った。その数はヴィリオの比ではなかった。
「少年…戦いとは何だと思う?力?スピード?破壊力?違うなぁ?この世界では神力だ」
「神力?なにを言ってるんですか?」
お互い立ったまま会話を続ける。
「選ばれた者ということさ。君もいずれ選ばれるだろう。遊びはここまでだ。どうやら客人の使用人が気づいたみたいでこっちに向かってきている。私は隠居の身なのでここでお別れだ。少年よ今度また遊ぼう。次はノキを連れてきてもいいからな?全力を早く出したいものだはっはっは!」
そういい蔭へと消えていき、いくら青闘気の纏で視てもどこにも姿はなかった。
(なんだったんだ?あのシャドロンて人?は…義母さんに殺された幽霊なのか?幽霊にしては生き生きしてたな…まあいい…イルルさんが来る前に逃げるか)
青闘気の纏で一瞬で1キロ先の家の屋根へと移動し。自分がいた場所を監視すると、イルルとオフィーリアとレティアまで来てイルルが何か説明しようとしていたがすぐ冷静になりゼルツと念話するのだった。
(ゼルツ…聞こえますか?)
(お!…おぉ…聞こえるぞ?いきなり切ってなんだったんだ?説明しろ!)
(義母さんクラスの変な人に捕まってやっと返してもらえたところです…はぁ…)
(ハア!?ノキさんレベル…レジェンドクラスがこの街にいるのか!!何て名前だったんだ?)
(シャドロン・レイルと名乗っていました。心当たりは?)
(レイル家っていやあ表でも裏でも有名な貴族で学院の生徒会長だってレティア・レイルだろうが?!まあ裏じゃあ伝説の顔無しの情報屋ってはなしだが…なんでもいつも傀儡を通してしか情報を与えないとか…そこんとこはあんましらねぇが…シャドロンっていやあ確かレティア・レイルの実の祖父にあたるんじゃなかったか?ただの爺さんじゃないのか?)
(最近の爺さんはずいぶんと若作りをしているんですね…20代前半にみえましたが)
(んー…まぁその件は後で聞くとしよう、それより話覚えてっか?キールグの葉が…)
(0.5倍使われているんでしょう?焼き菓子に、ちょうど今屋根の下から出店がでています、ラブメイトって名前ですよね?)
(お前はタイミングがいいのか悪いのかわからねぇなぁいつも!お前のとこいくから店員確保しとけよ!)
場所を知らせゼルツは転移魔法を隠れて使った。
肉体的精神的にも酷いのはノキ義母さんの修行ぶりだった。彼はげっそりした顔で心から独り言をいった。
「疲れた…」
屋根の上で一言だったがもうそれは学生の疲れの領域ではなかった。隣家の屋根に転移していたゼルツが見て数分間はその顔を見て絶句していた。