どう思われようと勝手です
イルル・ロチェルは食事の買い出しで市場通りを歩いていた。彼女はオフィーリアのメイドであり過去にはオフィーリアに武術の指南をした腕の立つメイドである。彼女はオフィーリアを見つけ近づいていった。髪は片方の前髪をみつあみで少し青みがかったか色で表情は美人というよりかわいいとけいようしたほうがいい。
「お嬢さま。どうしたんですか?こんな早く下校なさるなんて?」
「お…!おぉイルルか」
先ほどの老人(ヴィリオ変装)と荒くれが気になり考えていたところにイルルが声をかけてきたので少し頭が回らなかったのかあいまいな返事になった。
「いや…さきほど私に剣を向けて来たものがいたのだが…謎の老人が撃退してくれてそのまま去っていったものでちょっと考えていてな」
イルルはすぐに察した。
(ハユード様は変装の達人と書類にかかれていましたしその老人でしょうね)
「で、その老人はどちらへ?」
イルルは悟られぬように話題を返す。
「警備兵に連れていくと言っていたが…老人にしてはあまりに早い動きでな…不意とはいえ相手のミゾに拳を一発入れただけで意識を持っていかせたのだ。この街に来て以来初めてのことなのでちょっと不信に思ってな…」
(ハユード様…もうちょっと丁寧に処理できなかってんでしょうか…)
顔には出さず話す。
「ナナン様が直接は語りませんでしたが見聞を広めよということでは?そうゆう老人もたまにはいるってことじゃないですか?」
納得がいかない顔をしていたが、まあいい、と言いながら一緒に屋敷へと帰っていく。
オフィ―リアとイルルの住んでいる屋敷は王族のためにクレナの家、ルヴェリア家が建設した一級品の建物である。オフィーリアはイルルがメイド長をし、ごく少数のメイドと住んでいる。玄関を少し歩き入るとすぐにホールになっておりパーティーなどもできる広さである。オフィーリアは玄関を少し歩いたあと左に向かう。そこに自室があるのだ。イルルと歩きながらオフィーリアは語る。
「イルル…私は今日剣術で男子生徒に負けたのだ…」
「お嬢様がですか?」
「うむ…純粋な剣術でだ。相手が魔力で身体強化を使わなかったので私も使わなかった。だがそれだけで男と女で差があるものか?」
少し考えるイルル。彼女は剣術も教えている。そこら辺の一般生徒では身体強化使わなくても勝てるぐらいには指南してきたので少し驚いている。
「相手はどんな太刀筋をしていましたか?」
ふむ、と話だし。
「太刀筋なんてものはないな。なにせ相手は自分から剣を捨てたのだから」
「剣を捨てた…不意打ち狙いですか?」
「よくわかるな?不意ではあった、不意ではあったのだが体がいつの間にか相手の思うように動いていてな。無刀取り、という学園では教えていない古流な技を使われた。正直何が起こったのかわからなかった…ついでに父上に勅命をもらい剣術指南を約束させようと思っている」
「無刀取りができる方ですか…でも少し気が早いのではないですか?」
「確かにそう思う…だが知りたいのだ!あの者はまだ全力を出していない。全力で戦えば私も本気で身体強化を使い魔法も使う。それでもあいつには高い壁を感じた…」
「それは私でも勝てない相手ですか?」
「イルルなら勝てる。と思いたいがどうかわからない。確かにイルルも強い。百戦錬磨の壁をイルルにも感じると同時にそれ以上に感覚で悟った。危険な相手だと。まだ若いが必ずあの者はかの世界を踏破した者たちに並ぶのではないかという感覚だ。ナナン姉さまも強い、そして怖い。でもあの者は…」
「名前を教えてもらえませんか?」
イルルはその学生に少し興味を持った。ナナン王女の名前がでるほどその学生は強いという。オフィーリアの語りをみて。
「うむ。ヴィリオ・パルグランツ、という名前だパルグランツという名前に覚えはないか?イルル?」
一瞬で理解したイルルであった。
(なるほど。そういうことですか。でもつながりが見えませんね…)
「多分私の知る上では一人しか知りません、しかもつい最近のことなので…それにパルグランツ氏についてはちょっと国王様に口外厳禁と言われているのでちょっと…」
教えたいが、まだ色々イルルの中にも関係性など情報不足でありしかも王様に口外してはならないと言われているので無理矢理聞かれてもし自分の知っているパルグランツ氏と関わり合いがあった場合…またパルグランツ氏の機嫌を損ねるようなことをしたらこの国が亡ぶとまで国王様に言われているのである。謎の多きパルグランツ家である。そんな事情を知らないオフィーリアではあるがイルルとは自分が物心着く前からお側役として血のにじむ鍛錬をし見習いメイドからメイド長へと一緒に成長してきた仲なのでこれ以上は聞こうとはしなかった。
「父上が口外厳禁といったのならば仕方ないな、しょうがないがこの話はここまでにしておくか。イルル?少し頼みたいことがあるのだが…いいか?」
オフィーリアは鞄からバラバラになった紙、写真をみせる。
「これはなんでしょう?」
「さっき言ったパルグランツの写真だ…あいつめ…自分には秘密がありそれを隠すため隙をついて破り捨てたのだ。再生できないかな?」
ヴィリオという少年に興味を持っていたイルルはバラバラの写真を見て、さらに秘密があるとオフィーリアは彼から聞いたという。結構イルルの中では一つの謎が解けそうだった。
「人の秘密を知るというのはあんまりいいことではありません。秘密を知ったがゆえに相手を傷つけたり自分のいる世界とは別の世界に葬ってしまうカードを手に入れてしまうとこともあります。まぁカードを手に入れた人がどう使うかによりますが…それでも彼の秘密を暴きたいと?」
「この写真はレティア会長がクレナ先輩から借りて術式がかかっていると言って貸してもらったのだ。だがもうこの秘密はレティア会長はもう知っていると。そしてこの写真に付与した術式はレティア会長だとも言っていた。レティア会長が知っているなら私も知ってもいい思うのだが…」
ふてくされるオフィーリアである。だがそんなところもかわいいお嬢様のためにしょうがないので。
「わかりました!わたくしが明日までに再生と解呪を試みます。でも秘密を知ったからと言ってそのカードを…」
「わかっているよイルル。大好きだ!」
大げさにイルルに抱き着くオフィーリア。本当の姉妹のような姿であった。
そしてその日の夜見回りしていたイルルは数時間前から監視の目があるのを感じていた。
(毎日面倒ですね…捕まえても呪殺で死んでしまうし…この圧は気持ちが悪いですね…)
そんなことを考えていたら。一瞬で圧が消えていくのが感じ取れたのであった。そして闘気のこもった紙飛行機が意思を持つかのように飛んできたのだ。内容はこう書かれていた。
『今日忍び込もうとしていた輩は全員排除した、あなたも寝てください。』
(わたしの気遣いまで…ハユード様…お優しいんですのね…でも一応いつもの見回りだけはしておきます)
イルルはハユードを初めは好んでいなかった。素顔を隠してまで戦う意味がわからない。わからないものに期待を寄せるのは彼女の中ではマイナスと言える。しかしオフィーリアを守ってくれたり毎日キチンと報告を持ってきたり自分の気遣いまでしてくれる無言の騎士に好いていると言わないが。オフィーリアを陰ながら守る同士としては存外プラスのほうが強く、今では少し良い人ぐらいに思えていたイルルであった。
そんなハユードことヴィリオは風呂のあと屋敷に着き誰にも気取られないように監視をしていた5人の人物をみな闇へと葬ったのだった。彼とて魔法を使わなくても人間5人を塵芥にできる力をもっているのである。ただ魔法が好きなのでいつもはゼルツに処理してもらっている。彼は罪もない人を手にかけることはしないということを自分の内で作っていた。彼が本当に心から激怒して首を跳ねて殺した貴族がいた。中等部の2年の頃でまだゼルツとコンビを組んで4か月後であった。その貴族は闇ギルドとつながり亜人達を奴隷として自分の色々なはけ口に利用していたからである。初めて殺しを行ったときは感情に身を任せて先を考えず後になってほかに手はあったのではと後悔した。しかし義母に言われた言葉が彼を立ち直らせてくれたのだった。
「確かに人を殺すのは大罪だ。だけどヴィリオ、綺麗事だがあんたが助けた奴隷たちにとってあんたはまぶしい存在じゃなかったのかい?あたしはあんた以上の大罪を犯したこともある。どれが正義でどれが悪かだなんて人の見方一つなんだよ。あんたは優しすぎる。だからあんたは間違ってない。優しいあんたが本気でキレて殺しちまったんならそれは言い訳のしようもない罪人だったのさ。まったく泣き虫だねぇ。あんたは」
赤ん坊の頃から育ててくれた義母に罪を意識していたヴィリオは申し訳なさ、後悔、反省、いろんな思いが爆発して泣き崩れ義母はそれを優しく抱きしめてくれたのだった。それからは見て見ぬふりができぬ罪あるものを吟味し本当に罪を罪とも思わないものだけをこの手にかけようと決めた時だった。
話は戻るが手紙を送ったあとヴィリオは少し風邪を引いて義母印のなんにでも効く丸薬を飲んでその日はベッドに着いてすぐ寝たのだった。
翌日丸薬のおかげかぐっすり眠れたが起きたのは昼の11時だった。
「あー…あの薬効きすぎてすごく眠れるんでした。最近病気にならなかったのですっかり忘れてました」
一人事を言いながらもう誰もいない寮から変装して街に出ていたイルルと王女殿下を見つけ護衛する一周間が始まったのだった。
本当にいろいろやることあるんで不定期になりますがご了承を…