告白されてしまいました
あれから四日の護衛が続いた。時には出店を視察したりしたが。『天の堕天』はもう現れなくなっており。次の日登校のヴィリオは夜のオフィーリアの別邸の監視者始末をしようとする前に4日ぶりにクリスタルに念じた。
(ゼルツ?聞こえますか?)
(ん…ヴィリオか、どうした?)
(そちらの状況は?)
(あぁ、シャスさんから情報をもらったがもう今は王宮に狙いを定めてるらしい。三王女になにもできないし毒菓子も変わっていったからな、もうあとは爪を取るしか残ってねぇし、オロチと一回合流してマウルスの様子を見たんだが、もうありゃあマウルスじゃないな)
(どういうことですか?)
(マウルスは魔族に心を食われてもう別人だ、そんで今は具合が悪いって理由で街の借家にいるが、魔族がどう動くかはシャスさんでも予想が難しいらしい店員たちに本当のことを言おうともおもったが万が一魔族がマウルスの皮で店員に近付いて不審に思われたら命が危ねえしな、教えれてねぇは、あと王宮に新人の使用人が来たがこいつは『天の堕天』のマウルスと同じポジションだ、名前の詳細はパーティーの日に教える。偽名を使ってるから本名とごちゃごちゃしたらめんどくさいからな、あとクレナからの連絡でリオナ殿下のとこには警備兵の中に闇ギルドがいたがこいつは別の回しもんだった、あとそっちはもう『天の堕天』が身を引いたらしい、残ったのは『天の堕天』が切ってなんの情報も得られなくなってどうしようもない貴族たちだな、だからもうほとんどそっちは大丈夫だ、だがまぁ…注意は怠るなよ?)
(そうですか、了解しました。そういえば手紙はシレルを通してミューレン先生にわたったみたいです。よかったですね)
(そうだが、明日からお前は学校だろ?俺がいなくても大丈夫か?)
(いつもの毎日が始まるだけでしょう。まあ会長と殿下を監視することが増えてしまいましたが)
(そうか、そっちはあと3日後に中間テストだ。うまくやれよ?)
(もちろん。そろそろ仕事に戻るので、では)
(おう)
魔具を胸に入れ、館の100メートル前から目に闘気を使い見回す。
(一人か…本当にもう大丈夫そうですね)
胸から一本の小さな剣を取り出す。一瞬で監視者の後ろまで行き首に剣を突き立てようとする。
「だれの指示だ…」
「ひっ!殺さないでくれ!俺はただここで立って屋敷を見てろって言われただけなんだ!」
首から血が少し出る程度に切る。
「だれの指示だ…」
「ベルティアン・タール様だ!ほんとだ!許してくれ!」
「次は殺す。二度と来るな。その貴族と他の奴にも言っておけ…」
「はいぃ!」
暗い中なので顔も見られず済んだ。あとは手紙をイルル・ロチェルに渡すだけだった。
夜の見回りでイルルは闘気を耳に纏いハユードが来たと同時に監視者を生かして逃したことをしる。いつもなら手紙で事足りていたのだが、急いでハユードの元へ行こうとする。
ハユードが手紙を書こうとしていたところにイルルは現れた。
「こんばんわ、ハユード様」
「!…どうも、こんばんわイルルさん。なにか用事でも?」
「いえ…少し話がしたいと思い…だめですか?」
見つめるイルルに対しヴィリオは。
「いいですよ?でも僕はあまりおしゃべりが上手くないですよ?」
「いえ、少しでいいんです。お嬢様を守るもの同士としてあなたのことを少し聞きたいと思い、その…」
ヴィリオはイルルをエスコートし二人は月に照らされ庭の椅子に座る。
「王女様のメイドという仕事は大変でしょう?いつ頃からなされてるんですか?」
話題を振るヴィリオ。
「私の、ロチェル家は王家専属の使用人でして、ナナンお嬢様にはお兄様、リオナお嬢様にはお姉様がついており私はお嬢様が5歳のころにメイド見習いで7歳から一緒にいます」
「そうですか。僕は物心ついたときから義母だけだったので兄妹というのに少し憧れがありますね」
「義母?ですか?本当のご両親はどうなさっているのです?」
「僕の両親…ですか…。これはゼルツにも言ったことがないので話すのは初めてですが、僕は魔大陸生まれです。なんでもその魔大陸で戦っている王国の血を引いてるらしいですがそこは良くわかりません」
「では王族なのですか?!」
「どの階級かはわかりませんが一応そうなんでしょう、義母がいうには。なので一応貴族が習いそうなことは一通り覚えさせられました。戦い方もダンスも家事も」
「その…義母さまは何をなさってるのですか?」
「田舎で医者をやっています。結構評判はいいんですよ?」
「素敵な仕事ですね。お兄様やお姉様はナナン様やリオナ様が独立しているのでいろいろ世界をみてまわってるのですが私はまだ王都とこの学院付近しかしらないので一度緑豊かなところにいってみたいです」
「あんまりにもなにもないので逆に残念な気分になると思いますよ?」
「どこの地方なんですか?」
「ここから南西のウィーリッズという田舎町です。確かに緑は豊かですね」
「ハユード様の育った町ですか…行ってみたいです!」
「僕の育った…か…いずれは魔大陸に帰るかもしれないんですけどね」
「どうしてですか?」
「僕が義母に育てられたのは命を保証できるほど強くなるまでなんです。まぁ義母にはまだ遠く及ばない非力なんですけど」
「そんなことありません!私は毎日いつもしってます!貴方が私よりもはるかに強いことを!なんでそんな謙遜をなさるんですか!」
少し声を荒げたあと、すいません…、と謝罪するイルル。
「貴方はこの世界をくまなく踏破した人たちがいるという噂はご存じですか?」
「あ、はい、一応聞いたことがありますが」
「僕の義母はその一人、サタンハンドと呼ばれるレジェンドクラスの力の持ち主です」
「え!?えええ!?」
「しかも義母は見た目が若く年齢不詳で100年以上は生きているらしいんです」
「え?!ちょっとまってください!?ちなみにエルフ族ですか?」
「いえ、僕から見たら普通…というのはちょっと違いますが基本的に人間ですね」
「そうなんですか…すごいですね…」
「このことは他の人にはいわないでくださいね。初めてこんなこと喋ってしまいました。おしゃべりが過てしまいましたね」
「いえ…私が初めてでよろしかったのですか?」
「恩人に隠し事なんてできない性分でしてこれはサービスみたいなものです。ちゃんと恩はかえさせていただきます」
「でもまだ隠してることがあるんですよね…?」
「…確かに…でもあと2年したら本当のことが言えるかもしれません」
「この2年になにがあるのですか?」
「まあ…やり残していることを完遂するみたいなことです」
「何かお手伝いできることはありませんか?」
「そうですね、殿下を2年ほど守っていただき卒業させていただければそれが僕へのお手伝いにつながるかもしれませんね」
「はぁ…それでいいのでしたらこれからは毎日学校に同行させていただいて守ります!」
「い!いえ!そこまで…いや…それも…あり…?」
すこし考える覆面の下の顔を想像して笑うイルル。
「どうしました?」
「いえ、なんだかハユード様が結構自分と近い年齢なのかなって思っちゃって、私来年で成人なんです。でも仕事がらいいお相手が見つからないので少し焦ってるところもあって…ハユード様は結婚なさってるんですか?」
「いえ、結婚はしてません、でも結婚するなら精神年齢高めのお姉さんがいいですね。僕はおっちょこちょいなんでそこをカバーしてくれる人が望ましいです」
イルルはヴィリオとの話が始まる前から心臓がどきどきしていた。そして最近になって他のメイドたちに相談したら、それは恋です、と言われやっと自分の気持ちに気づいたが…まだ自分からは言い出せずにいた。だがここで終わったらなにも残らない気がしていたイルルは決心し行動を起こす。
「ハユード様?仕事着にゴミが…」
「え…?まあ別にって…!!!!」
イルルは頬にキスをしたのだった。
「どど!どうしました?!イルルさん!?」
「ふふっ!私の初めてです!どう思われても構いません、私はあなたに好意を抱いてしまったことを教えたかっただけです。理由は、純粋で優しい所にです」
「僕が純粋で優しい…ですか…義母にも優しいと言われましたが僕の手は汚れています。人を何人も殺めています。純粋なんかでもないし…」
「そういうところが素直で純粋なんです。それにあなたは理由なく無差別に人を殺さないように見えます。どうですか?」
「確かに…葬ってきたのは悪事をする人ばかりでしたが…でも…」
「あなたに守られた人は必ずいます。現に街の活気を戻したのもあなたの力ではありませんか?それは人徳厚く優しい心が自然とそうさせたんだと私は思います。あなたの1番になれなくてもいいです。2番でも、3番でもいいですでも私はあなたのことが好きです!愛したいとおもっています!あなたが待てと言われれば待ちます、でも逃げれば地の果てまででも追いかけます!だから…だから…あれ…なんで涙が…」
「…イルルさん…ではあとこれだけ待ってもらえますか?」
ヴィリオも顔を赤くして指を3本立てて言った。
「3か月?」
「いえ…3年です…その間にあなたのことも知りたいしもし2年間過ぎて本当のことを言えたらあなたは幻滅するかもしれません「そんなことありません!」…」
「待てと言われれば待つといったばかりじゃないですか!でも逃げたら、わかりますよね?」
「僕は逃げませんよ。イルルさん、わがままな僕ですみません。本当ならすぐに答えをだすべきなのですが…」
「わかっています。やり残したことを全力で成し遂げてくださいね!待ってます!」
あはは、と笑い涙を流しているイルルの月に照らされた笑顔はヴィリオの目に焼き付いていた。イルルはつっかえていた思いをぶちまけることができて胸がすっとしていた。本当はキスだけで済ますつもりが気持ちがあふれて告白までして涙もながして、顔はくちゃくちゃになって、でもそんな自分を否定しなかったハユードが本当に愛おしくなっていった。
「年を取ると3年なんてあっという間なんですからね!?覚悟しててくださいね!」
「ははっ…わかりました。では僕からも一つ」
ヴィリオは今回の毒を解毒をするために切り札にしていたものを渡す。もう解毒の魔法陣を敷かなくても済んだことで不必要になった誕生日にもらったある小さな宝石だった。
「これは何という宝石なんですか?」
それはイルルの髪のように紺色のような宝石だった。
「それは義母に僕の10歳の誕生日に無理言って作ってもらった賢王の石というものです。魔力をながして使えば一回ですが膨大な超魔力で奇跡に近い現象をおこします」
「そ!そんな大切なものもらえません!」
返そうとするが手をもって握らせる。
「あなたなら気兼ねなく渡せます」
まっすぐ優しい眼で見つめるヴィリオ。この前のオフィーリアにした冷たい眼じゃなく本当に真心のこもった真ある眼だった。その眼を見つめあいイルルは赤くなる。ヴィリオは冷静を装っているがかなりドキドキしていた。
「わかりました。お受けいたします」」
「では僕はそろそろ行きます」
「では、また!」
イルルとハユードはそこで別れたのだった。
オフィーリアは柱の陰からイルルが告白するシーンを目撃していた。イルルは洗面所で顔を洗い涙のあとを消したが少し腫れていた。
「あらお嬢様、こんな夜中にどうされました?」
「初恋…実るといいな。なにかあったら相談してくれ」
不器用ながらそう伝えるが。イルルは顔を真っ赤にし。
「おっ…おっ…お嬢様ぁぁあああ!!」
恥ずかしくてその日は良く眠れなかったイルルだった。




