今日は食べます
新改良のラブメイトを売り出した当日の日ヴィリオは悩んでいた。一応ハユードの恰好で屋根から見ていたが。客足はあまり良くなかった。街はまだ暗い雰囲気だし店員も面持ちが良くなかった。一旦ヴィリオはイルルに手紙を送りオフィーリアの護衛を任せ店員1の出店を視察していた。朝9時から始まってもう2時間経つが買っていったのはまだ5人程度しか買っていない状況である。
(本当に僕が買って食べて効果あるんでしょうか?…可愛い売り子でもいればちょっとは違うんだろうけど…仕方ない…もうそろそろ昼だし頃合いですね)
路地に降り街中を歩きだす。するとすぐにヒソヒソ声が聞こえてきた。
「おい…あれハユードじゃねぇか?!」
「偽物じゃない?」
「でも…」
色んな人から注目が集まる。出店に近寄り軽く挨拶をすると店員1は笑顔と申し訳なさの入り混じった顔で迎える。
「こんにちはハユードさん…申し訳ありません。せっかく新しいレシピで作ったラブメイトなんですけど。やっぱり看板にニューとか新とか付けたほうがよかったですかねぇ…?」
「大丈夫今からちょっとしたマジックを起こすから安心してください」
「マジック?なにするんですか?」
「ゼルツさんの作戦みたいなものです」
「はぁ…」
すると大きい声でヴィリオは言う。
「新しくなったラブメイトを2つください!」
「はっ!はい!ただいま!」
注目を浴びていたハユードがあの体調を崩すラブメイドを買おうとしていた。それは一つではなく二つ買う意味である。しかもハユードが新しくなったといったことの意味がわからなくて街を歩く人々の注目がさらに高まる。
「おい…ハユードがラブメイトを二つって…」
「新しくなってたのか?あの菓子?」
「キャー!ていうかもう一つは誰に上げるの?!」
「彼女はもういるの?」
「あぁ渡されたい…」
この焼き菓子のうたいもんくは恋人を引き寄せる、である。それは想い人と一緒に食べれば恋が成就するというほど本当においしい焼き菓子のアピールだ。実際当初王都で売っていたころはカップルが倍増しになっていったのは本当である。なにせ一流焼き菓子職人のマウルス・リービッドが発案したのだから。
とりあえず街の中で10分ほど目立つが黒の矢のハユードが待つということは女性からしてみればお近づきのチャンスだった。若い2人の婦人が声をかける。
「あのぉ…すいません。黒の矢のハユードさんですか?」
「はい?なんですか?」
「本物?」
「本物だよ!?だってあの右肩見てよ!」
「あ!ほんとだ!ガチハユードだ!」
二人の女性は何やらテンション高めに話し出す。
「こんなこと言うのは失礼なんだけど…このお菓子たべたら調子悪くなりますよ?ハユードさん?」
「そうそう!この前なんて二人のカップルが別れたとかでこの宣伝の看板もあてになりませんよ?」
「あぁ…それなら大丈夫。僕もこの焼き菓子を食べたので改良が必要だと進言しレシピを改めさせてもらいましたから」
「え?じゃぁ調子悪くならないんですか?」
「えぇ、どうやら最近売られてたのには重大な工程ミスがあり改善しています。なんならあなた方にも食べていただきたいのですが、もちろん僕も食べますので」
「じゃあ今回のラブメイトはハユードさん監修なんですか?」
「まぁ僕は発案者のミスと隠し味を提供させていただいただけです」
「どうする?」
「お菓子はともかくハユード様と…あぁ…一回ぐらいならいいじゃない?夢見たって!」
「そうだよね!そうだよね!こんな機会もう来ないかもしれないし!買おうよ!」
「すみませんラブメイトもう二つお願いします、僕が奢りますので試しにたべてみてください」
「はい!承知しました!」
「キャー!プレゼントされちゃった!!」
「あぁ…眩暈が」
そしてハユードは4つの焼き菓子を渡され二人の女性に差し出す。
「百聞は一見に如かずということわざがあります。まぁ噂より一口食べてみましょうか」
そういうとハユードは覆面の口の部分を取り何事もなげに食べて。
「うん。うまい!」
二人の女性はゴクリと喉を鳴らし一口食べる。すると。
「あぁ…おいしい!?♡なにこれ!全然聞いてたのとちがうじゃん!」
「ハユード様と一緒に幸せになれるぅ!サイコー!」
注目していた周りの人達は3人をみて、あたしも試しに、じゃあ俺も!、
瞬く間に売れてゆく新ラブメイト。店員はいきなりの数多の注文にもめげず手を動かし続ける。
出店の周りの空間は幸せそうな人たちでにぎわっていた。そしてもう一つ疑問に浮かぶ女性陣がいた。それはというと。
「ハユードさん!もう一つのラブメイトは誰に上げるんですか?やっぱり黒の矢のクレナ・テリーカ・ルヴェリアさんですか?」
(やっぱり…こういう質問する人はいるんですねぇ…こういうときは)
「これは僕の恩師へのプレゼント用です。別に恋人はいませんし今は作る気もありませんから」
「そうなんですねぇちなみにハユードさんて何歳なんですか?」
「ご想像にお任せします。では僕はこれで」
一瞬で周りの人は見失ったのだったが。屋根の上で、ここはもう大丈夫そうですね、と言いもう一つの出店を屋根の上から視察しにいくヴィリオだった。噂はすぐに広まりその噂は学園にまで伝わったという。
ヴィリオは一時を過ぎ、お昼にダルクの旗に来ていた。新しくなったラブメイトを主人に味見してもらうためだ。賑やかな店に黒の矢の一人が来たことでまたちょっと注目を浴びていた。
「あら!ハユードさんじゃない!ひさしぶり!元気にしてた?!」
アーラさんが出迎えてくれた。
「ええ、元気ですよ。ちょっとお願いがありきた次第です」
「あらなーに?それ、ラブメイトじゃない!もう噂は聞いてるわよ!でそれはアンナ用かしら?!」
「流石アーラさんだ耳が早い、これはご主人に味見をしてもらおうとおもいきた次第です。」
カウンターに座るが無言の店主。なにか言いたげだが性格のせいか素直にしゃべれない。するといきなり酒を飲みだす主人、そして言葉をだす。
「ようハユードさん!あの時は娘をたすけてくれてありがとな!で、今日は何かもってきたのか?」
アーラは、しょうがないわねえ、というも笑っていた。
「ちょうど酒が入ってることだしつまみにこの焼き菓子なんてどうです?」
「噂はアーラから聞いてるぜ!なんでもおいしくしたのはあんたのおかげだってなぁ!やっぱり黒の矢は世間の見方だぜ!なぁアーラ!」
「もー昼間っからの酒はダメっていったじゃない」
「てぃやんでぃ!おれぁ酒がねえと生きれねえ性分なのよ!」
「まあアーラさんも怒らないでください。どうぞこちらを」
不器用だが菓子を手に取る主人、臭いを嗅いだ後。ふむ、といい一口サイズに切って食べる。
「ふっ…ふっ…はっはっはっは!こいつぁうめぇ!アーラ!おめえも食ってみろ!酒が進むぜ!」
「隠し味にナヤッツの実をふんだんに使っているので酒とも合うと思ってました」
「へぇーじゃあ一口!んー!うまい!これ!みんなも食べてみてよ!」
一口サイズにして客のみんなに渡しだすアーラ。ちゃっかり5口分残している主人。
「おぉ!これが新しくなったやつか!うめぇな!」
「おれぁいい…一回食って体調崩しちまったし」
「そういわず食ってみろよ!あの主人が笑うほどだぜ?!」
「まぁ一口だけなら…なんだ!全然前の味と違うじゃねぇか!こりゃあ大将が笑うはずだ!しかも気分が良い!前の食べてたやつにも教えてやらねえと!」
店もいい雰囲気になっていった。その時、店に来たのは。オフィーリアとイルルだった。
二人ともがハユードに眼がいった。
「ハユード殿か…」
イルルは軽くお辞儀をして二人ともアーラに接待されだした。
「こんにちわオフィーリアちゃん!イルルちゃん!いまちょうどハユードさんが主人に酒のつまみに焼き菓子をもってきたところよぉ!」
「昼間から飲んで店大丈夫なんですか?」
イルルが訪ねる。
「まぁ顔は赤いけど結構飲める方なのよねえ、うちの人って、だから問題はないわ、もしかしたらこの前の料理の完成品が食べれるかもしれないわよ?」
アーラは主人に近付き話し出す。
「ねぇあなた?ゼルツさんにも出したしハユードさんにもあれ出してもいいんじゃない?」
「おうそうだった!腹減ってねえかい?ハユードさん!?」
「そういえば焼き菓子しか食べてませんでしたね。少しお腹がすいてきました」
「ちょっと待っててくれよ!前提供してくれた食材で料理すっから!」
「はい、わかりました」
厨房であのパスタを茹で魚の切り身をのせ特製墨ダレをかけて1品だした。
「へいおまち!」
「おぉ!あの魚の身と墨ダレですか!?おいしそうです!」
「どうぞ召し上がってくれぃ!」
「では、いただきます」
フョークとスプーンを起用に使い一口食べる。
「…!このパスタはすごいですね!魚の卵のプチプチ感があってピリッと辛いのをチーズがまろやかにする!それに墨ダレ!これにはファーガード沖でとれるジョウタードのクリーム墨ですね?!」
「ジョウタードを知ってるたぁさすが黒の矢だな!」
「あれを捕まえるのは苦労しましたからね。海に潜って仕留めるのは難儀な仕事でしたから。いつもの仕事服が真っ黒になってもう散々です」
「ありゃあなぁ…まあ上質な墨ダレなんだが色は結構取りにくかったろ!?」
「はい…髪も真っ黒になってあの仕事服は処分してしまいました。結構つかってたんですがね。今はこの服で満足してますが」
「あれは白い絹をつなげただけのただの生地に見えるのだが…イルルはどう思う?」
「まぁ仕事用ですし素顔はわかりませんが普通の服を着たらまともになるのでは?」
聞こえないように小声で会話する二人だが、周りも結構賑やかだしヴィリオは聞こえなかったことにする。
「これはメニューには入れないんですか?」
そこ、なんだがなぁ…、といい。
「流石にあの魚はうちの保存庫には1週間がげんかいでよぉ…ジョウタードも仕入れるのは仕入れきるが季節の関係かあいつは取れるときには結構取れるんだが取れねぇときにはめっきりなんだわ。だから定番にはちぃと遠いかもな、だからまぁゼルツさんとハユードさんだけでオロチさんにゃあ悪いがいまからこいつを3日間だけメニューに出す予定でぃ!」
「そうですか。らしいですよみなさん!」
「おぉ!宣伝たぁ助かる!もう日にちが近いからすぐ使いたかったところよ!ついでにこいつの名前はクロノヤパスタって名前でぃ」
「おう!おれにもそのパスタ頼む!」
「おれもおれも!」
みんな待ってましたとばかりにクロノヤパスタを頼む。アーラは先にオフィーリアとイルルにクロノヤパスタをだす。
「ふふっ!メニュー公開したから3番目と4番目はオフィーリアちゃんとイルルちゃんよ!食べて家に帰ったらすぐに歯を磨くことをすすめるわ、あとこれ」
中くらいの瓶に水が入っていた。
「これはなんの水ですか?アーラ夫人?」
「ニルグの滝の硬水よ!これで歯を洗ったらすぐに墨がとれるからサービス!家で使ってね?他の人には内緒よ?」
「ありがとうございますアーラママ」
その日ダルクの旗から出てきた客のほとんどは歯が黒くなって笑い話にしていた。一応ヴィリオにも硬水を渡すアーラであった。
夕方になりアーラ・フェイルと主人トーガ・フェイルの娘が帰ってきた。
「ただいま」
「あらおかえりアンナ」
「おう」
厨房に一回顔出すアンナ・フェイル。
「お父さんなに食べてるの?」
「ん?これぁハユードさんがつまみに焼き菓子をってどうした!」
ハユードと焼き菓子というワードに反応して最後の1口をみるアンナ。
「これってラブメイト?」
「そういう名前らしいな、ヒック。噛めば噛むほどおいしくってってそんなぁ!!…」
いきなり最後の一口をパクっと食べるアンナに悲しい顔をするトーガ。
「ごめんね。お父さん、今度買ってきてあげるから落ち込まないの!でも一口だけどほんとにおいしいわね」
アーラはその夜トーガと飲み明かしたとか。




