ニューラブメイトです
夜7時50分、すでに馬車が2台ならんで噴水広場に止まっていた。二人の店員が話し込んでいた。
「よく考えてみたら黒の矢ツートップだぜ!すげぇな!俺達!」
「そうっすよ!俺達!なんか今さらだけど緊張してきたっす!」
店員1と店員2は6時過ぎに解放されて帰って冷静になったあとよく思い出し興奮していた。なにせ一か月前に西のギルド最強の座に着いた今ファンが必死に姿を追い求めているブレイク中でこの一か月所在がわからなかった黒の矢なのだから。
「ハユードさんてなんかミステリアスなイメージで一匹オオカミ的な感じだったけど話すと以外にまともに接してくれてなんかうれしかったなぁ…」
「でもこの街で毒売ってたのは最低なことしてたっすね…俺達…」
「そうだな…罪滅ぼしの為にもハユードさんの持ってきたレシピを穴が開くくらいみてニューラブメイトを作ろう!王都はゼルツさんが何とかしてくれるはず!」
「そうっすね!この街を本当にカップルばっかりの街にして見せるっす!マウルスさん驚くだろうなぁ!」
そんな話をしていたら女性4人2人はメイドでもう二人は綺麗な女性が近づいてきた。
「すいません。ラブメイトを売っている店員さんですか?」
いきなり女性たちに囲まれてびっくりした店員1と店員2。
「あ、はいそうですけど。もう今日は売っておりませんがどうしました?」
「私はレティア・レイルといってテヴィリス学院のものですけど、さっき毒を売ってたって話を聞いたんですけどどういういみですか?」
「あ…それは」
結構目立ってしまっていたらしい二人だった。周りは誰もいないと確認したはずだったのだが。
「もしやラブメイトという焼き菓子になにか変なもの入れていたのではないか?」
オフィーリアは指摘する。これは昼にヴィリオがシャドロンと戦っている最中に話していたことである。
最近王都から流行った焼き菓子を食べた人達が精神不安定になるというレティアの調査をオフィーリアは聞いて話し合っていたのだ。
「企業秘密っす…」
「ほう…王家の者に対してでもか?」
「へ?!もしやその姿は…王女様ですか?!」
二人はちょっと離れて小声で話し出す。
「やばいっすよ俺達、あの人王都で見たことがあるっすけどオフィーリア第三王女っすよ…」
「マジか?偽物…にしては大胆過ぎるし…もう一人はよく見たらあの髪の色、この街のは大貴族のレイル家の一人娘じゃないか…じゃあ王女様も本物…」
うずくまり話していると。さらにオフィーリアから指摘が入った。
「しかも何やら黒の矢の話もしていたな?黒の矢が何か悪事でも働いているのか?」
(それはちがうとおもうんですけど…)
イルルは話が全部聞こえていた。、今日の昼に色々とレイル家の近くで行動を起こしているのはハユードが事件を解決へと導いているのではと思っていた。
(まぁ確証のないこと信じるのはまだ早いですが)
そんなとき布を巻いて覆面姿のハユードが音もなく蔭から現れた。
イルルも光に街灯に照らされるまでわからかった。
8時ちょうどに噴水広場に着いたヴィリオだったが。
(うわぁ…きまず…)
尻込みしていたが店員二人を守るために姿を現したのだった。
覆面で声がぼやけて聞こえる。
「こんばんわオフィーリア王女とレティア・レイル嬢。こんな夜に女性だけでは危ないですよ?」
「まさか名前を知ってもらってたなんて、ありがとうございます、そして初めまして黒の矢副ギルドマスターハユードさん」
レティアは内心タイミングが良いと思っていた。ハユードからヴィリオについて何かききだそうとしていた。
「まさか偽物ではないだろうな?」
まだ本人だと信じてもらえなかった。それもそのはず。大会から一度も姿を現していないのにいきなりすぎて怪しんでいた。
「では何をすれば信じていただけるのですか?」
二人は何か証明できるものを考えていた。するとレティアは言い出す。
「あなたのギルドマークを見せてください。それで納得しましょう」
(なるほど、さすがレティア会長)
ギルドマークとは一ギルドに一つしかつけてはならない法律がこの国にはありもし架空を装って他のギルドマークを入れた場合1年の禁固刑または罰金罪になる、いわば身分証明書なのだ
ハユードは惜しげもなく肩のマークを見せた。
「これで信じてもらえますか?」
「確かに黒の矢のマーク…怪しんで申し訳ありません。ハユードさん」
(ヴィリオ君のは左肩…ハユードさんのマークは右…同一人物ではなかったのか…)
レティアは内心ヴィリオ本人がハユードではないかと思っている節があった。長髪が一緒で大会の際覆面が破れ素顔も少し似ている気がしていたからだ。
「怪しんで申し訳なかったハユード殿実は聞きたいことがあるのだがよろしいか?」
「わたしにお答えできるものなら何でもいたしましょう」
「ヴィリオ・パルグランツというものがそちらのギルドにいないか?」
(うぅわ…ド直球…)
覆面で口元が見えない。目だけであるがその目も平静を装っていた。
「あぁヴィリオ君ですか。彼にはお世話になっていますよ?魔法の成功例を出したいとクエストを出していたのをうちのマスターが見つけ面白がてら仕事したことがきっかけで仲良くなり肩にマークまで付けてしまってね」
イルルは。何となくではあるが嘘をついている気がしていた。それはオフィーリアの周りを見てきて貴族社会の嘘などを見抜いてきた経験からだ。
「そうですか…では本格的なギルドの仕事はしてないんですか?」
レティアが問うと。
「あのあとうちのマスターがオリジナル魔法を気に入って成功例をいくつか作ってるくらいで特にはしていないとおもいますが」
「そうでしたか…それは何年前ですか?」
食い下がるレティアも嘘をついているのに少しではあるが感じていた。
「確か3年くらい前じゃなかったかな?」
(3年前…まだヴィリオ君が中等部2年生のころ…クレナ先輩はまだ高等部1年…でも違和感が…)
何かまだ聞かなければと思っているが。絡めてはもう通じない。仮説がほとんど役に立たなくなっていたその時。
「「あなたは嘘をついているな」ますね」
もう一人のメイドのニーナは話について行けなかったがレティアと同じくヴィリオが嘘をついているのがわかっていたのと同時にオフィーリアも直球に思ったこと言った。
「気が合いますね王女様」
オフィーリアは、うむ、と言い話し出す。
「あなたの目は王家に近付き甘い汁を吸おうとするものがつくときの嘘とはちょっと違う目をしているが真がない。隠し事をしているのは間違いない」
(ふむ…さすがは王族ですね、それにこのメイドも、中々侮れませんね)
「申し訳ありません王女様レティア嬢…隠し事をしているのは確かですですがそれは今はまだ言えないことなのです」
イルルはシークレットクエストのことかと思い話をすり替えようとしてるのに気づいた、が。
「申し訳ありませんお嬢様…私も彼と一緒の隠し事をしております。どうかこの場は鉾を収めてくださりませんか?」
「イルルも?!」
オフィーリアは驚いていた。ハユードと同じ隠しごとがあることに。
「それは父上からのことか?」
「はい…いまはまだ言えないのでございます」
「むぅ…では仕方がないな…では話を変えるがこの場に何をしに来たのだ?」
(庇われたのか…なぜ…)
少し考えてもわからなかった。今イルルが問い詰めれば確実に突破口が開けていたはずなのに。彼女もなぜ主人に嘘ではないにしろすり替えを指摘しなかったのかわからなかった。ただ触れてはいけない事なのではと思うとつい口が動いていた。
(なんでこんなことをいってしまったんでしょうか…わたし…)
ヴィリオはなぜ庇われたかわからないが話を転換する。
「そうですね…このラブメイトのことはどこまでお気づきですか?お二方」
レティアとオフィーリアのことを指していた。
「これは学院の生徒からの情報なのですがここ最近ラブメイトをたべた生徒は精神不安定になってしまう症状がでているのです。街もなぜかここ最近活気がないということもラブメイトに関係しているのではと」
「なるほど…では申し上げますがこれはまだ極秘ですが今日までのラブメイトにはある薬草が使われておりました。高等部の方ならご存じかと思いますがキールグの葉というものでございます」
「キールグ…!それは第二級指定の禁忌食材!」
「はい今日まではでございます」
「今日まで?」
「はい。この店員の方々は今日まで闇ギルドの方々に脅迫されて内容も教えられずこの葉から作られる薬を焼き菓子に入れられていたのです」
「何!闇ギルドだと!?その輩は?」
「この世から消えていただきました」
冷徹な眼でオフィーリアを射抜く。のだがなぜか安心できる眼だった。なぜか心がほっとするようなそんな気持ちにさせてくれる気分だった。
レティアもその赤い眼をみてオフィーリアと同じ想いだった。
この場にいる全員あの眼に心をほっとされるのだったが、彼は知らなかった。彼が特殊な存在であるゆえに起こった眼を見た人たちの心境を。彼の眼はこの地域では珍しい赤い眼をしている。北の極寒地方の人は時々赤い眼をもって生まれてくる者もいるのだが、もし彼らが同じように射抜けばそれは冷徹であまり良い思いをしないものだっただろう。
「そ…そうかつまりはその…始末をしたということだな?」
なぜか顔を背け話すオフィーリア。
(なんなのだ!この眼は!冷酷な眼をしているのに心が安堵してしまう)
「はい…どうされましたか?」
「なんでもない!それでハユード殿はまだこの店員に用事があると?」
「えぇ、薬をぬいて焼き菓子に改良のための果実とレシピを持ってきた次第でございます」
(なんだ?結構さっき冷たい眼で見てしまったのに印象が悪くない?…)
彼もつい闇ギルドのこと思うと冷酷になってしまうのは知っているが反応が普通の人なら客観的にみて酷い男と思うはずなのに、ピンと来ていなかった。彼の眼は魔眼の魅了とはまた違うものなのだがそれを知るのは先の話である。
「私は当時の味を知っているのでそれを参考にレシピを改良しました、店員の方々に見てもらったらわかると想います」
レシピと食材を店員二人に渡す。すると。
「すごい!?隠し味レムレムのしぼり汁の量まで完璧にあってる!!それにナヤッツの実をいれてアクセントにするとは…マウルスさんも驚くぞ!」
「本当っす!なにからなにまでマウルスさんの工程作業がほとんどいっしょっす!」
「今からでも作ってみてはどうですか?お客人がちょうど4人ほどいることですし、わたしも明日の昼に食べに行きますので。今日はこの場で内のマスターと話があるのでまだちょっと時間がありますから」
ちょうどゼルツが転移魔法で噴水広場に来た。
「わりぃわりぃ!ミュームググ!」
いきなりゼルツの口を押え小走りに移動するハユード。
「あなた今ミューレン先生とかいったら絶対にばれるとこでしたよ?今はハユードとゼルツなんですから…」
「すまねぇ…ちょっと油断してた。どういう状況だ?」
説明すると。
にやりと笑うが。
「そりゃあ毎日の積み重ねで姫様を守る同士として庇ってくれたんじゃねえか?」
「そんなものなんですか?」
(いくら王族のメイドで年が少し違えど心は乙女心ってやつよそれは)
ゼルツはハユードにこう言っとけといらない気を使ってレシピを受け取ったあとじゃあ行ってくると言いその場を後にした。
ヴィリオもイルルに近付いていき少し話がありますと言いイルルを少しだけ移動させこういう。
「この恩はいずれ必ず返えさせていただきます、では」
その言葉でイルル顔真っ赤にしていた。暗い中か街灯のせいかその白い顔が真っ赤になったのはだれも気づかなかった。
そしてヴィリオは寮に戻りゼルツに言われたがあの言葉には別に特別な意味はなかった、ただイルルが庇ってくれたことに素直に心から言った言葉であった。頭を切り替え後でまた夜の護衛をしようと思うのであった。
その後4人は二人の店員が真面目にレシピを見ながら焼き菓子を作り上げた。
ニューラブメイトの初の客人として4人はただで焼き菓子をもらった。うたい文句は恋人を引き寄せるという。4人とも甘い思いをし、なんだか幸せな気分になっていた。イルルは看板の恋人を引き寄せるという言葉を密かに見ていた。
ニーナはすり替えのことはわからないがイルルが隠し事とハユードへのほのかな思いをいだきだしていたのはわかっていた。
ニーナ・レンティ20歳は思う。
(イルルさんうぶですね…私も恋人ほしいなぁ…)
まだ19歳のイルル・ロチェルはこの気持ちに気づいていなかった。
そしてテヴィリス学院のあるこの街は少しずつ戻りつつ変化もあった。あとは王都防衛だ。ゼルツは焼き菓子革命&闇ギルドの排除、オロチはマウルスの調査と国王の身辺警護とルガードファングの守護、リオナ王女を護衛のクレナとチャオ、そしてオフィーリア王女護衛のヴィリオ達黒の矢と助っ人にすべてがかかっていた。




