魔族の少女は一人旅立つ
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その昔、カートライトと名乗る悪い勇者が魔王様によって倒され、世界は魔王によって統治される世の中となりました。勇者を始めとした人間たちはたくさんの魔族を殺しましたが、勇者が倒されるとすぐに魔王様に降伏しました。慈悲深い魔王様は人間達を皆殺しにせず、石の中に封印するだけで許してあげました。こうして世界は平和になりましたとさ。
これは私が小さい頃によく聞かされた昔話だ。そして今後、どこかで番を見つけ、子供が生まれた時に語り継がなくてはならない話でもある……らしい。だけど、生まれてからずっと人間を見たことが無い私にはピンとこない。お父さんとお母さんも見たことが無いらしいし。
……人間ってどんな人達だったんだろう。
そんな子供らしくはあっても魔族らしくはない疑問を解消できないまま、私は10歳になってしまった。魔族は10歳くらいになると火と水の魔法を使いこなせるようになるので、すぐに独り立ちしなくてはならない。
なるべく沢山の子供を作って、一人でも多く一人前まで育てて、すぐに巣立たせて独り立ちさせる。それが常識だ。勇者によって魔族の数が減ってからのコクゼ?らしいけど、よくわからない。
唯一つわかることは、今日が巣立ちの日だということだ。荷物らしい荷物は無い。この空の手提げ袋だけが、持っていくことを許された。
「今日までお世話になりました、お父さん、お母さん」
「ああ、達者でな、ハンナ」
「早く自分の家を見つけるのよ。じゃあ元気でね」
それだけ言うと、両親は家の扉をあっさりと閉めた。別に驚くことでもない。中には巣立つ際に泣き出す子もいるが、それはその子が弱いからだ。
私は弱くない。だから絶対に泣かない。
「おい、あの白いやつが追い出されたぞ」
「弱虫ハンナだ!弱虫ハンナがついに独り立ちしたぞー!」
「えー!?ハンナって独り立ちできるのー!?私達に一回だって勝てたことないのにー!?」
「ぎゃははは!おいおい言ってやるなよ!だからこの村から出てくんだろ!?かわいそーじゃんかー!送り出してやろうぜー!」
「うはは!おいおい、人間とかいうやつの真似事か!?弱いやつを哀れむとかやめろよなー!かっこわりぃぜー!」
馬鹿らしい。勝てないんじゃない。ただ、戦うのが嫌いなんだ。戦えばお互いに痛いし、お前らだって痛いのは嫌じゃないのか。戦う理由は自分で見つける。あいつらみたいには絶対になってたまるもんか。
だから今は泣くな、ハンナ・タイバー。
「……絶対に、憧れのオウトで暮らしてやる。そしてあいつらを見返してやるんだ……!」
私は村を一度も振り返ることなく、胸を張ってまっすぐに前を見たまま歩き出した。そうしないと、また泣いたのかと嗤われるかもしれなかったから。
これは逃亡じゃない。未来への旅立ち、あいつらとの決別だ。絶対にあんなやつらに……あんなやつらに負けて、たまるか……!!
「そうだ……あんな……やつらに……っ!!」
……ううん、わかってる。こんなの強がりだ。私、本当はまだ、独り立ちなんて……。
「……お父さんっ……お母さんっ……どうしてぇ…っ!」
まだ……お別れなんて……したくなかったのに……っ!
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