プロローグ 逃走
「姫様」
私を呼ぶ声がする。
「はやく・・・さい・・・」
きっと夢の続きだろう。浅い眠りと深い眠りが交互に訪れ、はっきりとした夢とおぼろげな夢を交互に見るというのは有名な話だ。
「姫様ッ!起きてください!」
夢の続きに行こうとした私は現実に引き戻される。
「なによジュリアン、まだ朝の9時だわ」
「来月から王立学園での生活が始まれば、毎日7時には起きなくてはなりません」
「じゃあ学校なんて入学しないから寝てていい?」
「何を馬鹿なことを・・・さっさと朝食を済ませてください、ルイス様」
付き人のジュリアンに諭され、身だしなみを整え朝食に向かう。私は、小国の姫にして魔法の才能を見出され、王立学園の魔法科で研鑽を積むことになっている。そして、その立場ゆえに今まで許されてきた自堕落な生活を学園に入学するまでに叩きなおさないといけなくなったのだ。
「何よ急にマナーがなんだって・・・」
「いつかは学ばなければならなかったことです、諦めてください」
「むー・・・」
「もう一か月しかないのですよ、小国とはいえ一国の代表として王都に行くわけですし、学園では私が一緒にいるというわけにもいきません。やはり最低限は身につけていただかないと」
「わかってるわよ、もう」
頭ではわかっているが、やはりめんどくさい。
「どこに行かれるのですか」
「お花を摘みに、よ!」
「それは申し訳ありません、お待ちしております」
当然ながら嘘だ。たまにこうしてジュリアンから離れたところで、屋敷から逃げて遊んでいるのだ。今日もうまく逃げおおせたことだし何をしようか。思いつくまでいつものルートで散歩でもしよう。そうして今日も今日とて森を抜け、奥地の花畑に向かう。とても陽当たりがよく、昼寝するには最適なスポットなのだ。しかし、今日はいつもの場所には先客がいるように見える。。
「あれ?誰かいるの?おーい」
返事はない。動物か何かが寝ているのだろうか。
「聞こえるなら返事してよ、もう」
先客の存在を確かめるべく近づいてみる。
「ヒッ・・・」
そこには、全身に謎の機械を装着した、血まみれの少女が横たわっていたーーー