転生初日 目覚め
目が覚めた。
(助かったのか?)
ぼくは直前の状況を思い出す。
死ななかったことに少し安堵するとともに、
ああいった行動を取ったことでの後処理について考えると憂鬱になった。
(しかしここはどこだ?)
病院のようだけど、勤務先じゃなさそうだ。
ベッドから見上げた天井は木の枠組みであり年季が入っている。
(えらいレトロな病院だな。いまどき木造の病院なんてあるのか。)
(からだは……)
手足は拘束されていない。
普通に動かせる。
むしろ以前よりも力ずよく動かせる気がする。
首を括った後遺症はなさそうだ。
(首の傷は……)
(ん、傷はないじゃん。)
衝動的な行動を取って死にきれなかったが
幸い後遺症に悩まさせる半生をおくることはなさそうで安心する。
上半身を起こしてあたりを見回す。
木造である。
他にも3つのベッドがあるが患者は僕だけのようだ。
光が差し込む方に目を向けると木組みの窓が見える。
窓の外は緑である。
(どこだ、ここは?ぼくはこんなところ知らないぞ。)
窓から逆側に目を向けると質素な石組みの洗面と鏡が目に入る。
(いったいどんな酷い表情になっていることやら。)
ぼくはベットから抜け出し、鏡を覗き込み、強烈なめまいに襲われる。
そこには見たことのない男の人の顔があった。
年齢も違う。
20代後半、生命力という点では一番充実している死に見出されてしまったぼくにはまぶしいぐらいの活力に満ちた顔である。
僕はもともと顔は良くも悪くもないいたって平凡だった。
鏡に映っている顔は端正に整っている。
身長は180ぐらい、痩せ型、程よく筋肉がついている。
僕はふらふらと後ろに倒れこむようにもといたベッドに座り込む。
自分の手足を観察する。
顔だけじゃない、手足も自分のしっているそれとは違う。
(ふー……)
電話が鳴り患者の急変を知らされたときのように、
思考を入れ替え、冷静に現状を分析し始める。
(死後の世界、でも姿が変わるとかありえるのか。
首を吊った影響で脳にダメージが残り妄想を見ているのか。
いやいや間違いなくこれは現実だ。
それならこれは……転生?)
ぼくは素早くひとつの結論に至る。転生。
(転生転生)
(転生なのか、転生でいいのか)
もうほかの可能性は考えられなくなっていた。
(まじか!転生とか憧れるでしょ!)
ぼくは仕事から離れれば空想少年だった。
ファンタジーな小説や漫画は好きだし、特に能力系は特に好きだ。
自分がたった一つの能力を持つとしたら、どんな能力がいいのか、
それでどんなことをしたいのか、よく妄想していた。
最近はなろう系小説もよく読んでいた。
だから転生と思いつくと、現状が不思議とすとんと腑に落ちた。
(間違いない。)
(夢なのか。それでもいい。覚めるまでこの世界を思いっきり謳歌してやるぞ!)
不思議と以前の生活や世界への未練はなかった。
あるのは新しい世界への羨望と
これから自分に訪れる幸福への確信だけであった。