弐十壱 封印
これにて最終回です。短すぎますが、精一杯書きました。
魔鏡との戦いを終えた俺達は、鏡の状態に戻った魔鏡を持って鏡美神社へと向かっていた。そんな俺達の後を、ずっと塀の陰に隠れていたテレビ関係者の人達も一緒についてきた。
鏡美神社に着いた時には、すでに日が昇り朝になっていた。そして、大勢の人が見守る中俺達はゆっくりと階段を上っていき、本堂の裏手にある祠に到着した。ちょうどそこには立光と床橋の二人が俺達の無事を喜んだ。
「澤村!」
「よかった!無事だったのだね!」
「サンキュウ。だけど、まだ喜べないぞ」
「これから魔鏡の封印が最終段階に入るそうよ」
清美の一声で、皆が一斉に祠のある柵の中に入る鬼熊を見守った。避難した住民全員が、懐疑的な眼差しで祠を見た。
無理もない。だってここは、三ヶ月前までは何もない更地だった所だもんな。正しくは、そう見えていただけなんだけど。
鬼熊はまず祠の小さな扉を開き、その中の台座に魔鏡を置いて扉を閉めた。締め終えると箱から特別なお札を取り出し、扉の真中に斜めに貼った。
その後鬼熊は、柵の近くに置かれた瓢箪を持ち、蓋を開けて祠からぐるりと円を描く様にして中の黒い墨を垂らしていった。墨で円を描いた後、鬼熊は円の外に立って意識を集中し始めた。すると、描かれた墨から透明の膜が発生し、祠を守るバリアのように覆っていった。
そして、祠は完全に姿を消した。
これを見た住民達は驚きの声を上げ、中には信じられないとばかりに何度も目を擦る人もいた。カメラを持っていて人も、呆然とその様子をカメラに収めていた。
最後に鬼熊は柵の外に出て扉を閉め、南京錠で鍵を掛けた後更に鎖を何重に巻きつけて更に南京錠を掛けた。
そして、仕上げとばかりに宮司から二つの南京錠のカギを受け取ると、それを森に向けて思い切り投げ飛ばした。
大袈裟過ぎる様に見えるが、前に鬼熊が「魔鏡の妖気は凄まじく、何重にも封印して人間を近づけなくさせる必要があるのだ」、と言っていた。つまり、この封印は魔鏡の妖気が外に漏れないようにする事と、人間を近づけさせないようにする人避けの両方が機能しているのだ。
「これで魔鏡は完全に封印された」
ワアァ!と、見守っていた人達から歓喜の声が上がった。だが鬼熊は、町民の方に向き直して警告した。
「喜ぶのは構わないが、この状態でも魔鏡は強い悪意を持った人間を引き寄せる事が出来、復活の手引きをしてきます。そうならない為にも、私の先祖は祠を見えなくさせるだけでなく触れられなくさせる事で、人の手に触れさせないようにしました」
見えなくさせる理由を知り、町民達は一斉に言葉を失った。
「それに、この術だって完璧ではない。今回の町長の娘の様に入りこんでしまう事だって考えられる。その為にこの柵を作り、誰もここに近づけない様にさせた。大袈裟過ぎるように見えるが、このくらいやらないと魔鏡は再び復活してしまうんだ」
それを聞いた町民達は、これまでこの町の伝統を蔑ろにしてきた事を後悔し、反省した様子で頷いた。時代の流れに乗るのは悪い事ではないが、だからと言って伝統を軽んじて良い理由にはならない。
この町はもう一度、魔鏡の恐怖を語り継がなければならない。二度と復活させない為にも。
「いいか。ここにはもう、誰も近づいてはならんぞ」
それを聞いた町民達は、一度頷いた後一斉に祠のある柵から離れていき、カメラを持って人達も逃げるようにその場を去った。そして、わずか5分で鏡美神社の裏手には俺と清美と鬼熊の三人だけとなった。立光と床橋は、人の波に攫われて一緒に行ってしまった。あれはどうしようもないな。
「誰もいなくなったな」
「ええ。でも、この方が良いのよね」
「ああ」
今回の事件の発端は、千年前から続く伝承を蔑ろにし、やたらむやみに踏み込んだことで起きた。そして、その原因を作った神田町長はこの伝統を無かった事にしようと画策した。それによって魔鏡が復活してしまい、今回の様な事件が起こってしまった。
「信じる、信じないは勝手だが、こういう決まり事は守ってもらわないと取り返しのつかないことになるぞ」
「そうだな」
俺も、この伝説をあまり信じようとはしなかったから、無くそうと企んでいた町長の事はあまり悪く言えないな。
「だけど、私が未熟だったせいでたくさんの人が犠牲になった。まだまだ修行が足りないな」
最後にそう言い残して、鬼熊もその場を後にした。俺と清美も、鬼熊の後に続いた。
もう二度と、この更地には近づかないと心に誓いながら。
得るものと反省すべきところを見つけ、鏡美町を恐怖のどん底に陥れた魔鏡事件はこれにて幕を下ろした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから時間は過ぎ去っていき、あっという間に8月31日、夏休みも最後となった。と言いたいところだが、今回の事件で鏡美高校は大損害を受け、その修繕が終わるまで新学期は迎えられない状態になっていた。
町に平和が戻り、俺と清美は鏡美神社から町全体を見渡していた。
「いつもの穏やかな街並みが戻ったな」
「魔鏡騒動がウソみたいだわ」
「ああ」
あの事件の後、役目を終えた鬼熊はすぐに転校する事を告げ、再び青森の修行場へと帰っていった。
旅館を放火した生き残った生徒達は、全員刑務所に入れられた。幸いにも、被害に遭った老夫婦が彼等を許してくれたお陰で、数年で出られる事が予想される。とは言え、全員学校から退学を言い渡された。
特に、主犯格の秋崎清良だけはその罪が大きく無期懲役の実刑判決が下されるのは避けられない。二度と刑務所から出られなくなってしまう可能性が高いそうだ。
実質、残った三年生は俺と清美と立光の三人だけとなってしまった。それにより、鏡美高校は来年度より廃校が決まってしまった。
「今回の騒動のせいで、鏡美高校の生徒は大学受験を受けるのを禁止されるなんて」
「仕方ないわよ。三年生が私と琢磨君と立光しかおらず、残りは全員刑務所送りになった上に退学処分。そんな学校の生徒を、誰が受け入れるのかしら」
「結局、親のあの店を継ぐ以外に道はないって事か」
こんな事になるなんて、やっぱりあのクソ町長は死んだ方が良かったと思ってしまう。
それと、町の観光化や鏡美神社の取り壊しも今回の一件で中止になった。封印の祠がある柵の周りには、有刺鉄線と電子柵を作る事が決定された。
それと同時に、町長のこれまでの悪事が一気に露見し、それに付き従った議員全員が摘発され、逮捕された。近いうちに、新しい議員を決める為の大規模な選挙が始まるそうだ。
最後に、鬼熊と魔鏡の様子を撮影したテレビ局は、その映像を全国に配信するのをやめて、大切な資料映像として大切に保管していく事を決めた。流したところで誰も信じないだろうからな。
町は、元の平和を取り戻しつつあった。残念ながら、犠牲になった人達の遺体は全く見つけられなかった。魔鏡の持ち主にして最初の犠牲者である、神田成美の遺体も見つからなかった。魂は解放されたものの、遺体のすべては魔鏡に取り込まれたまま二度と戻らなかった。
「この先、この町はどうなるだろうな」
「今は平和だけど、魔鏡の脅威が去った訳ではないからね」
「ああ」
魔鏡は封印されただけ。いつまた誰かが、封印を解いて新たな持ち主にならんとも限らない。そうならない為にも俺達は、互いを思いやる事を忘れてはいけない。
「それはそうと、琢磨君があのお店を継ぐ時は私も雇ってちょうだいね」
「いいけど」
「いいんだ?」
「その代り、住み込みになるがな」
「いいわよ。そのまま一生住み込んでも」
お互いに苦笑いを浮かべながら、俺は清美の手を取り清美は俺の方に身を寄せた。
これから先も、清美を守っていくと改めて心に誓いながら。
いかがでしたでしょうか。僕なりのホラーを書いてみました。恐怖と自己顕示欲の暴走で、あそこまで狂ってしまうものだろうかと僕自身も疑問に思いましたが(今更)。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




