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妖しの魔鏡  作者: 悠志
13/21

十参 群青

ちょっとした遊びの回です。それがないと僕自身が窮屈ですから。

 事件の翌日は、町全体が未だに混乱しているという事もあって、俺達の高校に限らずどの学校も休校となり、次に登校する日が来ても終業式が近いという事もあってそのまま夏休みに入る事になった。

 俺達3年は、本来なら夏季講習を受けなくてはならないのだが、こんな状況で我が子を外に出そうとする親はおらず、受験生の身でありながら大学入試に向けた授業を受ける事が出来ないでいた。

 そんな生活が、十日も続いた。


「暇だぁ‥‥‥勉強しなくていいのはありがたいけど」

「よかねぇぞ。このままじゃ大学入試の試験は絶望的だ。自信があるのなら何も言わねぇけど」

「私は卒業したら、家を継ぐ為の本格的な修行に入るから、また青森に戻るだろうね」


 何てだべっている俺達も、ファーストフード店に何となく集まってハンバーガーを食べているだけであった。


「魔鏡探しも暗礁に乗り上げている感じだ、あの事件以来すっかり息を潜めている」

「事件そのものは続いているんだけどな」


 以前の様に一日に三~四人ではなく、三日に一人というペースになっている為見つけるのがより困難になっているのだそうだ。

 鬼熊によって悪夢から出てきた男を葬られた事で、完全に警戒されてしまったみたいだ。


「相手があの魔鏡では仕方がないと父も言ってくれているが、こんなにたくさんの人が犠牲になっているのに、私は何も出来ないでいる」


 悔しそうに拳を強く握りしめる鬼熊。頭首である鬼熊のお父さんでさえも、魔鏡が相手では犠牲者をゼロにするのは不可能と言っているから、まだ半人前の鬼熊が手を焼くのは仕方ない。

 それでも、この一件を鬼熊に任せるのは、鬼熊の今後と、この事件で得た経験が将来鬼熊の為になると信じての事なのだと思う。

 それに、俺も秋崎妹も鬼熊の事は信頼している。

 そんな鬼熊の悩みを聞いて、秋崎妹がある事を提案した。


「ねぇ、折角夏休みに入ったんだから海にでも行かない?」

「海か。良いじゃない。ここの所ずっと事件続きで湿っぽかったから、息抜きには丁度良いな」

「鬼熊さんも行きましょう。そんなに根を詰めても事件は解決しないし、私達三人で行きましょうよ。澤村君も、両手に花で良い思いが出来るし」

「何故俺に振る?」


 だけど、由緒ある一族としてのプレッシャーと、なかなか魔鏡の持ち主を見つけられない苛立ちを抱えたままでは視野が狭くなってしまう。たまには事件の事を忘れて、思い切り羽を伸ばすのも良いかもしれない。


「だけど、秋崎妹の言う通りだ」

「そんな訳で、明日早速行きましょう!」

「急だな」

「善は急げ、って言うでしょ。それに、こんな状況だからこそ早めに行動しないといけないの」

「それもそうだな」


 俺と秋崎妹のやり取りを見て、鬼熊は目を大きく見開いて眺めていた。


「お前等、本当に仲いいな」

「ん?どうしたんだ、唐突に」


 秋崎妹と仲が良いと言えば、確かに仲が良いかもしれない。勝ち気で男勝りで、喧嘩っ早い性格をしている問題児けど、秋崎妹がいつも声を掛けてくれるお陰で俺は不貞腐れずに済んでいるし、学校をやめないでいる。秋崎妹がいなかったら、今の俺はない。


「ま、まぁ、あんな酷い目に遭っておきながら腐らずにいるんだし、わ、私だって、その‥‥‥‥」


 秋崎妹の方は、急に頬を赤く染めて身体をもじもじとさせていた。ちょっと待て、滅茶苦茶可愛いんだけど。そんな反応をされると、俺まで照れ臭くなるだろ。


「まぁいい。確かに根を詰め過ぎていたかもしれない」

「そ、そうと決まったら早速水着を買いに行かないと!という訳で、ここからは男子禁制!行くわよ、鬼熊さん!」

「引っ張るな」


 何かはぐらかされた感はあるが、秋崎妹は鬼熊を連れて店を後にした。

 一人ポツンと残った俺は、残ったポテトをゆっくりと咀嚼してから店を後にした。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その頃

 暗い部屋の中で赤い鏡を持つある人物は、その鏡を通して海に行く事を決めた琢磨達の様子を見て聞いていた。

 聞いたのはただの偶然であった。次の獲物となる相手を探して何となく様子を窺っていたら、たまたま海に行こうという話をした琢磨達を見つけただけであった。ある人物が聞いたのはその部分から出会って、杏がある人物を探しているという所は聞いていなかった。

 それを聞いたある人物は、不適な笑みを浮かべながらあることを思いついていた。


「アイツ等、海に行くのだな。そうだな、あの方法を使えば簡単に人間を捕食できる。おまけに、省エネだし。まぁ、下手すりゃ人間の手でも簡単に倒せてしまうのが難点だが、大丈夫だろう」


 そのため、滅多に使われない手段だ。

 だが、少ない妖力で確実に捕食できる。それに、海なら街中と違って警察みたいな、拳銃を持っている連中はいないだろう。


「それに、前々からコイツを殺してやりたいって思っていたし」


 ある人物が以前から殺してやりたいと思っていた人物


     ――――秋崎清美――――


 ある人物が一番殺したいのは、他ならない不良の彼女なのだから。


「ちょうどいい機会だから、あの女にはとびっきりの恐怖を味あわせてから食ってあげよう。フフフッ!明日が楽しみだ。さて、早速材料の調達に行かないと」


 ある人物の描く、恐ろしい計画が、今、動き出そうとしていた。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺達はこれまでの息抜きとして、秋崎妹がネットで見つけた穴場ビーチに向かう為に電車に揺られていた。


「しかしまぁ、よくそんな穴場ビーチを見つけられたな」

「近くて少ない予算で行けそうな所を探していたら、偶然見つけたの」

「それ、本当に泳げるんか?」

「サメさえ出て来なければ大丈夫でしょう」

「頼りないな。本当に大丈夫か?」

「失礼ね。大丈夫よ。・・・・たぶん」

「たぶん、かよ!?」


 姉さん、妹さんはすっかりワルになってしまいました。って、元からか。


「まぁ、私はサメやクラゲさえいなければ何所でもいいけど」


 鬼熊さん、あんた等は勇者だ。つか、他にも心配すべきところはあるのでは?


「ホント失礼ね。ちゃんと他の海水浴客だってたくさん来ているわよ」


 はいはい。信じてあげますから。


「さて、トンネルを抜けるともう少しで目的地の海が見えますわよ」

「ん?」


 俺が窓の向こうを眺めると、一面青々とした綺麗な海が見えた。ビーチと駐車場の間に林があるみたいだが、距離が短い為迷う事は無いだろうと思う。

 目的地は、もう目の前であった。


「へぇ、結構いい所じゃん」

「でしょ。着いたら早速昨日買った水着をお披露目するから、楽しみにしなさい」

「そうさせてもらうよ」


 泳ぎに来たと言っても、俺はただの付き添いだ。

 悪夢事件で右腕を何十針も縫う大怪我を負った為、二人と一緒に泳ぐ事が出来ないのだ。

 ま、本音を言えば泳ぎたいのだけど、まだ抜糸出来ていないからあまり無茶は出来ない。足を水につけるくらいは出来るけど、水を掛けられるのは勘弁して欲しい。一応、濡れないようにする為のビニールは持ってきているが。


「泳ぐ事が出来ないのなら、私達の水着姿をしっかりとその目に焼き付けなさい」

「私達って、私も含まれてるの!?」


 秋崎妹とは対称的に、鬼熊はあまり自分の水着姿を見て欲しくないみたいだ。一体秋崎妹に、どんな水着を買わされたんだ。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その頃

 ある人物は三人が向かっている海に先回りして、恐ろしい計画の準備に入っていた。どうやって行先を知ったかについては、ある人物曰く秘密だそうだ。


「ここか。なかなかの穴場ビーチだな」


 少し感心した後、ある人物は早速用意した材料に妖気を注ぎ込んだ。材料の色が赤黒くなると、ある人物はそれを海に放した。


「あれが動き出すのに少し時間がかかるが、まぁいい」


 昼過ぎには、この海水浴場はパニックになっている。

 ここなら、簡単には倒されないだろうから、楽に恐怖を貪る事が出来る。


「こいつの足に捕まれば、確実にたくさんの人間を楽に捕食できるし、捕食した人間はこいつの口を通して私の胃袋に送られる」


 つまり、一度にたくさんの人間の恐怖を貪ることができる。


「あと、秋崎清美。ここが貴様の、死に場所にもなる」


 口の端を大きく吊り上げて笑いながら、海の中で徐々に大きくなっていく八本の足を持つ例のあれを眺めていた。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目的にビーチに着いた俺は、レジャーシートと日傘の準備をしながら水着に着替えている女子二人を待っていた。と言っても俺も、膝上の水着に無地の城の長袖Tシャツという格好をしているのだけど。

 長袖を着ているのは、右腕の傷をあまり見られたくないからであったが、傷口をビニールで覆っているだけでも熱いのに、その上長袖まで着ているのだから余計に暑かった。特に右腕。


「やはり激しく動かすと、痛みが走るな」


 軽く右腕を回しながら、傷の具合を確認した。

 傷は塞がっているだろうけど、まだ抜糸できていない為あまり激しい運動をする事は出来ないし、遊ぶときは濡れないように気を付けないといけない。


「ま、俺はせいぜいここで荷物番をさせてもらうよ」


 レジャーシートに腰を下ろしていると、水着を着た女子二人がこっちに来ていた。


「お待たせ」

「うぅ‥‥‥殆ど裸と変わらないじゃん‥‥‥」


 手を振りながら近づいて来る秋崎妹と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている鬼熊。二人ともかなり大胆なビキニを着ていた。


「どう、似合う」

「あ、あんまり見るな!」


 秋崎妹が着ているのは、胸のリボンが特徴的な赤色のビキニを着ていた。スタイル抜群で、腹筋が引き締まっている為何処かのグラビアアイドルにも負けていなかった。

 鬼熊が着ているのは、黒色のビキニであった。スレンダーなモデル体型に、黒のビキニという反則級の組み合わせはかなりセクシーであった。


「二人とも、スゲェにあっているよ。特に、秋崎妹は」

「へ?え、あ‥‥‥ああ、ありが、とう」


 俺に水着を褒められた秋崎妹は、顔を真っ赤にさせ、歯切れの悪い口調でお礼を言った。何だからしくないな。


「何か女として妙な敗北感を感じるんだけど」


 先程まで恥ずかしそうにしていた鬼熊は、表情に影を落として落ち込んでいた。すまない。


「そ、それよりも、泳ぎましょうよ」

「さっきまでの勢いはどうした?」


 何だか動揺した様子の秋崎妹は、手早く準備体操を終えてから鬼熊の手を引いて波打ち際まで走って行った。


「そういえば、昨日から秋崎妹の様子が変だな」


 いつもの調子で俺に話しかけてきたと思ったら、水着を褒められた途端にしおらしくなって振る舞い、動揺した様子を見せるようになった。


『お前等、本当に仲いいな』


 昨日鬼熊に言われた事が、頭から離れないでいた。

 確かに、秋崎妹とは高校に入学してからずっと仲良くしている。クソ町長の嫌がらせを受けてから、それまで仲が良かった友達が手の平を返して俺を差別するようになり、高校に入ってそれが更にひどくなる中、秋崎妹だけは俺の前に立って庇ってくれた。

 美人でスタイル抜群である反面、暴力問題ばかりを起こす不良として恐れられていたが、その実態は虐められている人を助けようとしていただけであった。

 確かに、やり過ぎで虐め返す様な形になってしまっているが、秋崎妹自身は歪んだ事が大嫌いな強い正義感を持った真っ直ぐな女の子であった。

 そんな彼女を知る事が出来たから、俺は秋崎妹と一緒にいるととても楽しいし、不思議と安心感も覚える。

 喧嘩した事は‥‥‥あったな。二年の時に一度だけ。俺がつい、デリカシーに欠ける事を言ってしまったせいで激しい喧嘩をしてしまい、一週間もの間互いに口も利かなかった。最終的に、俺が謝った事で元通りになったけど。


「今思えば、確かにデリカシーに欠けてたな」


 教室で軽く化粧をしていた所を見て、「似合わねぇな」と言ってしまった事が原因だったな。いつも喧嘩ばかりをしていたから、イメージがなかった為にそんな事を言ってしまった。


「お互いに意地を張っていたが、結局俺の方が折れてしまったんだよな。一週間だけとはいえ、あいつが離れていくのが寂しかったから」


 同時に、秋崎妹の事を女の子として意識するようになったのもあの時だったな。

 勝ち気で男勝りな性格をしていても、直情的で口より先に手が出てしまう様な所があっても、やっぱり女の子なんだなと思った。

 いや、意識するようになったのかもしれない。

 波打ち際ではしゃいでいる、赤色の水着を着た彼女の事を。

 漠然とそんな事を考えながら、午前中ずっと泳いでいる二人を眺めているとあっという間にお昼になった。


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