壱 始まり
夏なので、ホラーを書いてみました。と言っても、最初の1・2話は全然怖くありませんけど。
病院とは全く関係ありませんが、楽しんでいただければ幸いです。恥ずかしながら、病院ネタは思い浮かばなかったので。
澤村琢磨、十八歳。田舎町、鏡美町に住んでいる鏡美高校三年。この町での俺の風当たりは最悪だ。
「はぁ‥‥‥‥‥」
5限目が始まる15分前、ポケットに手を入れながら自分の教室、3年B組の教室に入るとクラスの男子が俺の机の上に座ったり、カッターナイフで傷つけたりしていた。
いつも目にする日常的な光景ではあるが、自分の机にこんな事をされては俺も腹が立つ。俺は仏頂面になりながら、机の上に座っている男子を思い切り突き落として、自分の机を元の場所に戻した。
そんな俺の行動に逆ギレした男子生徒達が、俺に掴みかかろうとしてきた。
「何すんだよ!」
「やんのか澤村!」
集団で掴みかかってくる男子に、俺は一歩も引かず最初に突っかかってきた男子を睨み付けていた。手を出したらその時点で俺が悪者になるのを知っているから、俺はあえて手を出さないで睨むだけにした。
そんな騒ぎに、一人の女子生徒が俺達に近づいてきた。長い髪を右上のサイドテールにまとめた、他の女子とは別格の美貌を持つ学級委員長兼生徒会長、秋崎清良であった。
だけど、秋崎清良は男子生徒ではなく俺の方を睨んできた。
「やめなさい!またあんたなの、澤村!いい加減にしなさい!何回問題を起こせば気が済むのよ!」
またって、毎度毎度俺ばかり悪者扱いしてコイツ等をかばいやがって!
あまりの理不尽さに、俺は今にも暴れ出しそうになった。そんな時、顔も姿形も秋崎清良と瓜二つだが長い髪を左上にサイドテールまとめた、秋崎清良の双子の妹の秋崎清美が間に入ってきた。
「あんた達こそやめなさい!だいたい、悪いのはそっちでしょ!澤村君の机の上に座ったり、カッターナイフで傷つけたりしたでしょ!」
「妹」は「姉」と違って、皆で寄って集って責めたてる様な事をしない、このクラスの中じゃ一番まともな生徒だ。少なくとも、俺にとっては。
「お姉ちゃんこそ、なんでこんな奴等の肩を持つのよ!悪いのは明らかにそっちでしょ!」
「清美は黙ってなさい」
「お姉ちゃん!」
「授業が始まります。全員席に座って」
秋崎姉はあからさまに話を逸らし、全員を席に着かせた。ちなみに秋崎妹の席は俺の前だ。
自分の席に座ると、秋崎妹が俺の方を向いて話しかけてきた。
「澤村君も、ムキにならないで先生に相談した方がいいよ。うちの担任なら、分け隔てなく聞いてくれるわよ」
「誰がムキになっているだ?睨んだだけだ」
「それでも屁理屈並べて、あんたを貶めるのがアイツ等やお姉ちゃんのやり方じゃない。クラスだけじゃなく、お姉ちゃんまでも澤村君を虐めて」
「放って置け」
俺は、これ以上何も言わなかった。これ以上俺が何か言っても、余計に悪い方向に傾く事を知っていたから。
「澤村君、本当にごめんなさい。私のお父さんのせいで」
次に声を掛けてきたのは、隣の席に座っている女子生徒、神田成美であった。
秋崎姉妹に並ぶ美少女で、父親が子の町の町長というこの町一番のお嬢様。
「神田さんが悪い訳ではないでしょ」
「でも、私のお父さんの我儘のせいで」
「そうだな」
この神田の父親のかなり評判が悪く、この町で最も伝統の深い神社を取り壊してスパホテルを建設しようと言いだしているのだ。町に多くの観光客を呼び寄せて、より活性化して欲しいと願っている人には高い支持率を得ているが、千年前からこの地を守ってきた神社を取り壊す事に反対している人達の評判は最悪だ。
そんな町長の意向に反対し、抗議している人達のデモが問題になっていて、その反対勢力を率いっているのが俺の父親と母親だ。
その腹いせとして、二人の息子の俺に嫌がらせをするようになり、町ぐるみで俺を悪者に仕立て上げた。クラスで俺の味方になってくれるのは、秋崎妹と娘の成美だけだった。あとは見ての通り、敵だらけという事であった。
「まったく、バカな奴が町長になったもんね」
「秋崎妹、娘の前だぞ」
「いいの。本当の事だから」
「ふん。それよりも授業始まるぞ」
その後俺達は、5限目の授業を始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
所変わって、とある山中の小屋の中で、巫女姿の長い赤髪の少女が呪文を唱えていた。周りには松明が灯り、目の前には大きな鏡が置かれていた。
「鏡よ、この先に起こる出来事を、未来を映し出せ」
その瞬間、少女の周りで燃えていた松明が激しく燃え上がり、鏡に何かが映し出された。映し出された何かに、少女は顔を強張らせて見た。
「これは‥‥‥」
内容を確認してすぐ、少女は術を解き、速足で小屋の外に出て夜空を見上げた。
「すぐに向かわないと。鏡美町に」
そこで何か、よくない事が起こる。
20話ちょっとの短い話を予定していますが、それでも楽しんでいただければと思います。