3話
強すぎる風に背中を押されて、転びそうになったむつだったが、目当ての物を見付けると、風の力を借りて滑り込んだ。むつが飛び込んだのは、マンションの前にある街路樹だ。これならば、山上の背中より強度もあるし安全でもある。
むつが風避けに街路樹の影に身を隠すと同時に、山上の運転する車がその横を通りすぎていった。置いていかれる形になったむつだが、後悔などしているはずもない。むつが山上に言った事なのだから。
車の音も風にかき消され、すぐに聞こえなくなった。むつの耳に聞こえてくるのは、びゅうびゅうと鳴る風の音だけだった。
街路樹に手を当てて、むつは立ち上がると、その影から辺りを見回した。特に見たいのは、風の吹いてくる方向だ。だが、雪が舞い上がりほとんど何も見えない。むつが感じたように、この雪がただの雪ではないと山上も言っていた。あぁして断言するからには、そうなのだろう。
依頼があったわけでもないから、何も確認する必要はない。だが、こんなにも荒れ狂っているからには、何かしら問題が起きているとしか思えない。何より、風が吹くにしても、途切れる事さえないのだ。仕事熱心とでも言うべきなのか、やはり気になってしまうのは、悪い癖だとむつは自嘲めいた笑みを浮かべていた。




