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2話
「お、あのマンションだ。湯野ちゃん、湯野ちゃん起きれるか?」
山上は前方のマンションを指差してむつに指示を出してから、振り向いて颯介の肩を叩いた。颯介は、呻くように目を開けた。だが寝惚けているのか、顔を出した管狐に、ぺちぺちと頬を叩かれている。
「管狐、噛み付くのはダメだぞ?」
苦笑いしながら山上が言うと、管狐は言われている事が分からないでもないのに、首を傾げてもせていた。
「…起きない?」
「いや、起きてるみたいだけど…動けないのかもしれないな。ちょっと待ってろ」
車を降りた山上は、後部座席のドアを開けると管狐にならって、颯介の頬をぺちぺちと叩いた。颯介はゆっくり目を開けたが、焦点が定まっていないのか山上を見ているようではあるが、誰か分かっていないのかもしれない。むつはエンジンを止めて、傘を持つと山上が居る方へと回って傘を差してやった。




