はじまり
吹雪の中、小さな少年を抱きながら男は管狐に道案内を頼み、ようやく家に着いた頃には、辺りは真っ暗となっていた。街灯も少ない場所で、よく無事に帰ってこれたものだと男は、ほっとしていた。
「…ただいま」
男が玄関を開けて中に入ると、奥からはぱたぱたとスリッパを鳴らして若い女が出てきた。その後に続いて、中年の男が。
「なぎ‼」
女は男の腕から少年を引ったくるように奪うと、良かったと安心したような顔を見せた。だが、少年を連れ帰った男の表情は冷たい。
「颯介、よく無事に帰ってこれたな。警察に頼んだんだが、吹雪が止むまでは捜索出来ないと言われて…お前が居てくれて本当に良かった。ありがとう」
「颯介さん、ありがとうございます」
颯介と呼ばれた男は、適当に返事をしただけで肩や傘についた雪を払うと、さっさと靴を脱いで上がった。
「あ、颯介さん。お風呂用意できてますから…入ってください。本当に、ありがとうございます」
ぺこぺこと女が頭を下げると、颯介はうっすらと笑みを浮かべて頷いた。そして、遠慮なく先に風呂に入らせて貰おうと、コートを脱ぎながら風呂場に向かった。その後ろを、とことこと管狐がついていった。