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はじまり
少年は男の胸を押すようにして、離れようとして居る。男は仕方なく、少年を雪の上にそうっと下ろした。少年はうろの中に身体を入れると、両手で雪の塊を取り出した。
「こいつも連れて帰る‼」
「…なぎが作ったのかい?」
お世辞にも上手とは言えない雪玉が2つ重ねられている物を、少年は男に見せびらかすようにして持ち上げた。
「うん‼ここで作って、雪降ってきたから、一緒にこの中に居たの。いっぱいお話ししたよ‼」
雪だるまと会話など出来るはずもないが、男は特には何も言わなかった。ただ、じっと少年を見ていたが、少年は視線には気付いていないのか、にこにこしながら雪だるまを見ていた。
「そうか…なら、その雪だるまと一緒に帰ろうか。寒いし、吹雪いてきた…帰れるかな?管狐…悪いけど、また頼むよ」
男は片手で少年を抱き上げると、傘を持った。来た時よりも雪も風も酷い。暗くもなっているから、視界もかなり悪い。だが、このままこの場にとどまって天気が回復するのを待つ気にはならない。男は管狐と共に、雪の中を再び歩き出した。