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11話
颯介は手を伸ばして、むつの額に触れると少し困ったように笑った。そして、山上に向かって、ゆるゆると首を振った。続いて手のひらを見られ、まじまじと顔を覗きこまれたむつは居心地悪そうに、きょろきょろとしていた。いくら颯介であっても、至近距離で見つめられると恥ずかしい。
「あー…やっぱり跡残っちゃったか」
くすっと笑った颯介は、むつの鼻の頭をちょんっと指先で触った。何の事なのか分からないむつは、自分でも触ってみた。微かに、凹んでいるような箇所がある。
「…ごめんね、管狐が噛んだろ?俺にするだけならまだしも…むっちゃんにまでするなんてな」
ダメじゃないか、と言う颯介の襟元から、するっと出てきた管狐は身を乗り出すようにして、むつの顔を見た。そして颯介の方を見て、叱られると分かったのか、そそくさと祐斗の方に駆けていった。
「ごめんよ…」
はぁと颯介が溜め息をつくのを見て、何があったのか、むつは昨日の事をぼんやりと思い出していた。