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11話
「…人は弱いんだって、ちちは言ってた。妖とは違ってすぐにこの世から居なくなるって」
「そうね…生きてられる時間が違うわね。だからって弱いとは…限らない」
言いきったむつは、後部座席を見た。ううっと唸りながら、祐斗が目を覚ましたのだ。そして寝返りを打とうとしたのか、どすんっと座席から転がり落ちて、またうめいていた。
「ほらね、弱くはない。落ちても平気」
狭い場所にすっぽりと埋まるようにして落ちた祐斗は、どうにか体勢を変えて起き上がった。
「おはよ、祐斗。らせつちゃんから何があったかは聞いたよ…かっこいい事するじゃん」
くくっと笑いながらむつが言うと、まだぼうっとしているのか祐斗は、まばたきを繰り返すばかりだった。
「祐斗?」
「…らせつちゃんは?」
「無事よ」
「良かった…」
安心したように、ほわっとした笑みを浮かべた祐斗は、座席に座り直すと疲れたように息をついていた。