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11話
「…帰ろうか」
らせつが帰りたくないと言ったとしても、帰らさせない訳にはいかない。よいしょっとむつは、らせつを抱き上げて立ち上がった。
「帰らない‼」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのは山上だけで、むつと颯介はやっぱりと顔を見合わせた。さゆきを凪が連れ出している。そのせいで、らせつも外に出る事を禁じられているのだ。らせつまでもが人間と行動を共にしていると知られれば、責められるのはむつたちでしかない。簡単に手は出せない強敵ばかりを、団体で敵に回すような事はしたくない。むつは、どうしたものかと悩んでいた。
「らせつちゃんは、あたしの事が嫌いなんじゃないのかな?さゆきちゃんを連れ出した人間の仲間だから」
「…嫌いじゃないもん」
「さっきは雪で埋めようとしたのに?」
「失敗しちゃったもん。それをむつとあの人が助けてくれた。むつ、その手…」
らせつはむつの手をそっと触った。氷のように冷たい手だが、手付きは優しく柔らかい。