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10話
がさっと音がして、雪がどけられていく。まだ視界が悪すぎるが、それは気配で感じられていた。呆然としていたむつだったが、聞こえていた声も、目の前での事も疲れと寒さからくる幻覚や幻聴ではないようだ。
「むつ、よくここまで1人で掘ったな。それよりも、よくここまで来れたな」
「悪かったね、急に居なくなったりして。俺は一応言っといたけど…連絡しなかったから、心配かけちゃったよね?」
「本当にな。心配したぞ」
「…すみませんね。たまには振り回してもいいって、むっちゃんから言われて甘えたんですよ」
聞き慣れた2人の会話は、いつものように軽い。ぽんぽんと言葉のやり取りがなされ、急に日常を取り戻したようだった。
「むっちゃん…こんな所まで来てくれてありがとう。本当に、嬉しいよ」
「湯野ちゃんがそんな事言うから、こんな事になってんだろうな」
困ったもんだ、と山上は笑いながら言っていた。