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10話
寒さと疲れで、ついに幻聴が聞こえるようになってしまったのか。むつはそんな自分が、嫌になってきていた。こんな事くらいで、情けない。そんな事で、この仕事が出来るものか。そんな風に自分を叱咤しながら、むつは動かなくなった手を動かし続けた。
「むっちゃん‼」
「…んもうっ‼うるさいわよ‼あたしは暇じゃないの‼構ってらんないわよ‼」
聞こえてくる颯介の声に文句をつけながらも、声がするだけでほっとすると同時に悔しくて、ぼろっと涙が落ちた。
「構ってくれなくていいから、どけ」
ムカつくような山上の声と共に後ろ襟を掴まれて、ぐいっと引っ張られた。えっと思った時には、ぼすんっと尻餅をついていた。
「祐斗が埋まったのか」
「みたいです。早くしないと‼むっちゃんは少し休んでるんだ!!」
ばさっと何かが顔にかかり、むつはそれをどけた。温もりのある暖かさに、むつはただ呆然としていた。