654/1090
10話
ゆっくりと進みながら、もう1度噛まれたむつだったが、文句は言わずに管狐の教えてくれる方へと方向転換して進んだ。祐斗とは手が届くような距離に居たはずなのに、いつの間にか離れていたようだった。だが、何故だろうか。そんな事を思ったが、今はそれよりも祐斗を見付けるのが先だった。
数歩いくと、管狐がぺちぺちと前足で頬を叩いてきた。噛まれるでもなく、押されるでもない。立ち止まったむつは、管狐の方を見た。
「ここ?」
管狐の姿さえ、はっきりとは見えないむつは頬に触れている感触で、管狐が頷いた事を知ると目を細めた。祐斗に持たせたペンライトの明かりもない。だが、管狐は祐斗がここに居るのだと知らせてくれている。
「祐斗?祐斗ーっ‼」
本当に居るのであれば返事くらい、してくれるだろうと思っていたが、返事はやはりない。その代わりに管狐が、するっと雪の上に降りるとむつの袖を引っ張った。