10話
ぐりっと額を押し付けてきていた管狐は、さっと肩に戻ってむつの頬をぺたぺたと前足で触れた。励まされるような感じはするが、祐斗を探してくれそうな気がしない。
「やっぱダメなのね…」
当たり前か、と笑ったむつがよく見えない前へと1歩を踏み出した。そして、また足を持ち上げてどうにか進もうとすると、管狐が頬に前足をかけて飛び上がるやうにして鼻の頭にがじっと歯を立てた。ちりっとした痛みに、管狐を叩き落とそうとしたが、寸前の所で手を止めた。
「なっ…何するのよ‼か、噛んだ‼」
むつが怒ろうとも管狐は動じる様子はない。それどころか、鼻先をぐりぐりと頬に押し付けてくる。何なんだと言いたげなむつだったが、あまりにもぐりぐりと押される物だから、よろめいた。転びはしなかったが、行こうと思っていた方とは違う方向に身体が向いた。すると今度は、すりすりと頬を押し付けてくる。管狐の情緒でも不安定なのかと思い、困ったようにほっそりとした身体を撫でた。撫でながら噛まれたり、押されたりした理由を考えていた。
「…もしかして、こっちに行けって事?」
撫でながら聞いてみると、管狐はしっかりと頷くように首を上下させた。成る程、と呟いたむつは管狐が示した方向にゆっくりと足を向けた。