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10話
目を閉じていたむつは、足元から何かがやってくるような気配を感じた。そろそろと近付いてきている。早くも鯉口を切ったむつは、うっすらと目を開けた。真っ暗で何も見えないが、顔に当たる冷たい物からして、まだ雪が舞い落ちてきているのだと分かっていた。
届く、そう直感したむつはしゃっと音を立てて日本刀を抜いて、そのまま降り下ろした。剣先が雪に埋まったが、そんな事はものともしない。すっぱりと切るつもりでいた。だが、ぴたっと手を止めた。近付いてきたのが、らせつだったとしたら、それこそ切れない。そう思ってしまったからだ。
「…っ…無理」
さっさと諦めたかのように、剣先を持ち上げてぱちんっと鞘に納めてしまった。だが、それで正解だった。
近付いてきた気配は、とんっとむつの膝に触れるようにして、そのまま身体の上をはってくる。それが嫌な感じだとは思わなかった。それどころか、この数日で慣れた感じだった。