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10話
落とす気はなくても、肩車をされてバランスをたもてないらせつの背中を手で支えてやりながら、むつはようやく自分の物ではないペンライトの明かりを目にした。祐斗は本当にその場から離れずに、待っていてくれたようだ。
「ゆっうとーっ」
「ゆっうとぅ」
少し息を弾ませたむつが名前を呼ぶと、真似するように笑いながら、らせつも祐斗を呼んだ。
「むつさんっ‼」
待ちわびていたのか、ペンライトで声のした方を照らしながら、むつの姿を確認した祐斗は、何故声が2人分なのかと疑問に思い首を傾げた。まだ少し遠くに居るからか、ペンライトを向けてもむつの姿は、はっきりとは見えていない。しっかり歩いてくるから、何かわけではなさそうだが、シルエットがおかしい。それでも、戻ってきた事にほっとしていた。
「たっだいまーっ」
「何で1人で行くんっ、すか…?」
どこまでも暢気なむつに、呆れた祐斗はペンライトを向けて、文句の1つも言いかけた。だが、それは最後まで言えなかった。