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10話
「らせつちゃんは…こんな所で何してるのかな?お母さんが心配してると思うよ?暗くなってるし」
「お母さんは居ないよ。おねぇさんがいっぱいとちちだけなの」
父と大人びたように言うのがおかしくて、むつはそうと笑っていた。そして、おねぇさんがいっぱいというのは、自分と少し似ていると思った。むつの場合はお兄さんがいっぱいだが。
「おねぇさんたちは一緒じゃないの?」
「んーっと…ちちの所にいってる。だから、うちは1人ぼっちで…つまんないの」
「そう…でも、勝手に出てきたら心配してると思うし…帰った方がいいんじゃないかしら?」
「いい!!帰らない‼ね、遊ぼう?」
「えぇっ!?あ、遊ぶって…」
「遊んでくれたら、帰り道教えてあげるよ?」
らせつという子供の目が、すっと細められて口元に笑みが浮かんだ。おおよそ、子供らしくはない、ぞっとする笑い方だった。