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10話
むつの声が気配の主に届いたのか、急に雪がびしびしと顔に当たってきた。やはり、雪女が近くに居るという事なのかもしれない。そう感じたむつは、ペンライトを口にくわえて、左手に持っていた袋の紐をほどいて中の物を取り出した。
ここしばらくは、鞘から抜いても居ない日本刀ではあるが、やはり持つと手に吸い付くように、しっくりとくる。すでに持ち主を、むつも認めてくれているようだ。その感じを受けて、むつはほんの少し勇気付けられた気がする。
颯介が側に居なくても、山上が事務所で待っていなくても、大丈夫なような気がしてきた。だが、そうは思っても、やはり今まで一緒に過ごしてきた仲間には側に居て欲しいし、仕事を終えて戻った時には、適当な感じでもおかえりと言って貰いたい。それが、むつのわがままだとしても、そうであって欲しいのだ。その為には、颯介の悩みを解決させて、山上を探し出して連れて帰らなくてはならない。と、なるとここでもたもたしている場合じゃない。
「あたしは、ただこの山を下りたいだけ…変な術を使って邪魔しないで」