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10話
はらはらと落ちてきた雪は、舞うように軽やかだった。あるかないかの、柔らかい風に吹かれ、さらさらと流れ落ちてくるようでもある。
雪が降り出したという事は、近くに雪女が居るのだろうか。むつはそんな風に思った。だが、さゆきとかいう雪女と対峙した時の雪は、こんなに優しい物ではなかった。このタイミングで雪が降ってきたからか、むつはますます警戒した。
「…誰?」
迷っていては本当に時間が無くなる。返事があると期待はせずに、むつは気配がする方へと声をかけた。だが、緊張しているせいなのか、喉にからんだようなかすれた声だった。
「誰?あたしの近くに居るのは誰?雪女?」
自分が気弱になっていると思われたくないからか、咳払いをしてからもう1度声をかけた。その声は、やけにしっかりとしていて、それも何だか逆に情けないくらいだった。