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10話
「そういう事だ。だから、拐われた時は助けたかったし、俺の所に来いって再三言ってるし、こうして情報も流す。分かったか?」
真面目な顔でちかげが言うと、呆気に取られているむつは何も言えないでいる。ただ、祐斗にはちかげが本心でそう言っているのだと分かっていて、聞いているのも恥ずかしいくらいだった。
「そう言う事だ。だから、少しは真剣に考えてくれよ?俺はそろそろ戻る…お前らも暗くなる前には町に戻れ。何が起きるか分からないからな」
やや早口で言ったちかげは、さっと立ち上がった。むつが引き留める間もなく、さっさと歩き出していた。それもむつと祐斗の足跡を借りて、自分は雪に埋もれる事もなく、軽々とした足取りで。
ちかげを見送ったむつは、まだ呆然としたように、ちかげが去っていった方を見ている。