10話
びんたを喰らわせて泣かせた事も、あっさり負けた事も何とも思っていないかのような口ぶりに、ちかげは困ったような顔をして祐斗を見た。だが、祐斗もちかげと同じ様な顔をしていたに違いない。
「…何?」
「いえ…泣かせた事にも、むつさんがあっさり負けた事にもびっくりして。それなのに、悔しそうでもないですし…」
「あたしだって負けるわよ。術者としては…どうだったのかしら?比べてないから分かんないけど」
「その刀を使って負けたのか?」
「そうよ。万能じゃないの」
「そうか…むつが負けた程か。それは確かに強いんだろうな。それにしても正体は結局分からないな」
「…あたしを何だと思ってるの?まぁそれはいいとして…そうなのよ。結局、何者なのか分からなくって…でも、あの子たちが絡んでてもおかしくないかなって。また、会いましょうねって言われたし」
「向こうはむつを気に入ったって事か。相変わらずモテるようで何より」
「…何か嫌味っぽいわね。あたしがモテた事なんか無いわよ」
「鈍感だからな」
むっとしたように、むつはわしっと雪を掴むとちかげに向かって投げ付けた。だが、それは雪玉でもないからか、ばさっとかかっただけだった。