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10話
「…そこまで察しをつけているなら、心当たりを聞かせて貰いたいもんだな」
むつと祐斗以外の声が頭上からすると、2人は勢いよく顔を上げた。誰も居なさそうなだが、誰か来そうな場合だとむつは言ったが、その通りになっていた。2人の頭上には、男がしゃがみこむようにして木の枝に座っていた。
「あらやだ。どちら様で?」
誰かなんて分かっているくせに、むつはおほほと上品な笑い声をつけたして首を傾げている。だが、その目はちっとも笑ってはいない。
「心当たりを教えてもいいけど、あたしにとっての利は何かしら?」
「…何が欲しいんだ?」
「お水」
「…山に入るのに水も持たずか?もし吹雪で下山出来ないってなったら、どうするつもりだ?」
「そこまで標高の高い山じゃないもの。管狐居るから帰れる」
からかうようなむつの言い様が、気に入らないのか、男はするっと滑るようにして枝から飛び降りた。