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10話
ゆるゆると続く斜面をのぼっていくと、一部開けた場所に出た。そこには、ぽつんと大きな木があり、周りには何もない。ぜぇぜぇと息をつきながら、むつは額の汗をぬぐった。祐斗も喋るのも億劫なくらいに、息が上がっている。
「こ、ここ…?」
座り込んでしまいそうなむつだったが、それはぐっと我慢して管狐に声をかけている。喉もからからになり、声はしゃがれたようになっていた。管狐は役目を終えたからか、するするっとむつの足をのぼって、肩までやってきた。そして、すりすりと頬擦りをしてきている。誉めて欲しいという事なのだろう。むつはそれに応えるようにして、小さくほっそりとした身体を、優しく撫でていた。
「祐斗、ここみたい…疲れたわね」
「登ったからには下るんですよね?」
「…じゃないと帰れないからね」
下る事など考えていなかったのか、むつの顔が固くなった。そして、溜め息を吐いていた。