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10話
「…大丈夫?」
「えぇ、どうにか生きてますよ」
祐斗は少し顔を赤くして、むつを睨むように見ていたがむつはけろっとした顔で笑っていた。危うく窒息させられる所だったと文句を言いたかった祐斗だが、後頭部にぽよんとした柔らかさを感じていただけに、何となく文句は言いにくかった。そっと手を伸ばして、髪の毛を直すかのように後頭部を触ると、まだ温かみと共に柔らかい感触が残っているような気がして恥ずかしくなっていた。コートの上からでも分かる、柔らかさのある物の間に、管狐はおさまっていたのか。それを羨ましいと言っていた西原の気持ちが、今ならよく分かった。だからといって、それを口に出せる勇気もなかった。
「ごめんね。とりあえず場所は分かったから離れようか…何か、察しのいい人が居るみたいだし」
話し声が聞こえたとは思えないが、とむつは呟いてそっと木から背中を離した。